ハンチントン舞踏病(HD)は、脳機能障害を招く遺伝性の神経変性疾患である。ハンチントン(HTT)遺伝子内にある異常に長いトリヌクレオチド反復が原因で起こり、この反復が、ハンチントンタンパク質(Htt)内の長く伸びたポリグルタミン(ポリQ)に翻訳される。研究者たちは、伸長したポリQドメインがHttの凝集を促進し、これによってHD患者に神経変性を起こすという仮説を立てた。Zhangらは、HDのキイロショウジョウバエモデルを使い、脳切片でポリQの凝集を阻害し、神経変性作用を遮断する複数の有機化合物を特定したことをProceedings of the National Academy of Sciences誌の1月18日号に報告している。
Htt凝集を阻害するこれらの小分子の特定を裏付けるために、同氏らは以前に開発していたHDの酵母モデルを使用した。増強された緑色蛍光タンパク質(EGFP)を、伸長したポリQを含有するHttタンパク質に融合した。酵母を用いてHtt-ポリQ-EGFP融合タンパク質を発現させることで、細胞内のタンパク質凝集の視覚化が蛍光顕微鏡で可能になった。この酵母モデルを高処理能細胞分析のための叩き台として用いながら、同氏らはHtt凝集を防ぐ能力を求めて16,000個の小分子化合物からなるライブラリをスクリーニングした(図1)。この酵母スクリーニングでその可能性が確認された9つの阻害物質のうち、4つの分子が哺乳類細胞内でのHtt-ポリQ凝集を阻害した。阻害特性が増強された化合物をつくるために、活性の高いこの4つの化合物を基にして多様な構造の化合物ライブラリを構築し、酵母と哺乳類細胞でこれらをスクリーニングした。このライブラリから得られた化合物のひとつであるC2-8が、哺乳類細胞でポリQ凝集を阻害し、IC50は50 nMであった。
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図1:酵母における小分子によるタンパク質凝集阻害
ハンチントン-ポリQ-EGFPタンパク質凝集が蛍光顕微鏡で視覚化された。未処理の細胞(上段)はタンパク質凝集体が蓄積していたが、阻害物質で処理した細胞(C2、下段)は蛍光封入体のレベルが低下していた。
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阻害物質が神経変性を抑制できるかどうか判断するために、同氏らはHDモデル系でこれらの化合物の力価を評価した。R6/2マウスの脳切片におけるタンパク質凝集を分析した結果、以前の分析で活性を示したいくつかの化合物は、マウスの海馬におけるポリQ凝集を阻害できなかった。しかし、C2-8はCA1神経細胞でのHtt凝集を効果的に阻止し、病変数を変化させることなく、より小さく、より拡散性をもつ凝集体を形成させた。ショウジョウバエHDモデルでさらに調査したところ、C2-8はin vivoで用量依存性に神経変性を阻止することにより保護効果を発揮することが分かった。
タンパク質凝集阻害物質は、HD生物学の新しいプローブとなり、治療薬の手掛かりを提供するものであるが、重要な問題も提起している。研究者たちが未だに議論しているように、そのひとつは、トリヌクレオチドの反復がHDを引き起こすが、ポリQの伸長がこの疾患の根本原因であるのか、あるいは二次的作用を反映しているだけなのかという問題である。ポリQ凝集と神経変性の阻害物質を同定すれば、トリプレットの伸長と疾患の進行との因果関係が裏付けられると考えられるが、これを評価するにはさらなる研究が必要であろう。もうひとつの問題は、C2-8がどのようにしてタンパク質凝集を阻止するのかが分かっていない点である。Zhangらは、C2-8が活性の高い化合物に代謝されるか、もしくは未知のタンパク質因子を募ってHttの凝集を阻害している可能性を示唆している。こうした領域での研究をさらに行えば、タンパク質に関係する疾患に新たな洞察が得られるかもしれない。