長期記憶が生じるのは、神経接続の強化とシナプスのリモデリングによるものと考えられている。しかし、こうした事象の根本にある分子学はほとんど解明されていない。フコース-α(1-2)-ガラクトース(Fuc-α(1-2)-Gal)の糖タンパク質への取込みを阻止する阻害物質2-デオキシ-D-ガラクトース(2-dGal)は、動物に可逆的な健忘症を引き起こす。Journal of the American Chemical Society誌の2月9日号でKalovidourisらは、化学的方法を使用して、海馬の神経成長の促進におけるFuc-α(1-2)-Gal介在経路のひとつの役割を特定したことを報告している。
Fuc-α(1-2)-Gal結合タンパク質(レクチン)を検出するために、同氏らはFuc-α(1-2)-Gal-ビオチンプローブ(1)を合成した。海馬ニューロンとインキュベートしたのち、プローブを神経細胞体と神経突起の両方に結合させた。多価Fuc-α(1-2)-Galを示すポリマーとニューロンをインキュベートして突起の相当な伸長を促進した。Fuc-α(1-2)-Galの濃度と結合価の両方が高ければ高いほど神経反応が高まったことから、レクチン複合体の形成が示唆された。
次に同氏らは、Fuc-α(1-2)-Galエピトープの存在を調べた。Fuc-α(1-2)-Gal特異的レクチンを用いて分析を行ったところ、海馬ニューロンに多糖体が産生されており、シナプスの局在と一致した染色パターンを示すことが分かった。これらのニューロンをレクチンで処理すると、神経突起の増殖が促進されたが、これはおそらく、糖タンパク質の集積を介したものであると考えられる。神経のFuc-α(1-2)-Gal濃度を低下させ健忘症を起こす化合物2-dGalが神経突起の伸長とシナプス形成を可逆的に抑制した(図1)ことから、この経路が記憶形成に関与している可能性が示された。
さらに研究を進めてこれらの相互作用に関与する糖タンパク質とレクチンを突き止め、これらの表現型の原因となっている経路を探究する必要があろう。小分子を使用して神経の成長を調節することができれば、記憶形成の根本にある分子学を理解するための新たな機会が得られるはずである。