人工の核酸は、天然のDNAやRNAについて考え、核酸進化の仮説を検討する実験系を提供してきた。研究室では構造を修飾した多数の核酸が作られており、こうした人工の核酸は実に多様な遺伝的特性と構造的特性を示す。特にトレオース核酸(TNA)は、化学的に単純なことと、相補的なDNA、RNAおよび他のTNAと塩基対をつくる能力があることから注目を集めてきた。Journal of the American Chemical Society誌で市田らは、長く伸びたTNAを組換えDNAポリメラーゼで合成できることを示しており、新たな機能を持ったTNA分子をin vitroで選別するシステムを提案している。
同氏らは、化学合成したトレオースヌクレオシド三リン酸を用いれば、長さが制限されたTNAヌクレオチドをDNAテンプレート上に酵素的に重合させ得ることを実証した。この研究で同氏らは、広範囲のヌクレオチドを組み込むように設計された変異Therminator DNAポリメラーゼ(NEB)が、24時間以内に50を超えるTNAヌクレオチドを収率20%以上で重合できることを示している。トレオースヌクレオチド組み込みの忠実度を評価した結果、選別条件下では10%以上のTNA鎖でエラーが生じさせることがないと判断した。
同氏らは、DNAポリメラーゼを用いてさらに長いTNA断片の合成を実証しながら、mRNAディスプレーによるペプチド選別法の概念とよく似たin vitroでのTNA選別法を提案した(図1)。プライマーとして使用するためにヘアピンDNAを構築した。ヘアピンテンプレート上でTherminatorを介したTNAの転写を行ったのち、ペアピンループを開始点にした相補的DNAの酵素的合成によりTNA鎖を置き換えた。cDNA合成によるTNA鎖の遊離によって表示されたTNAの中から機能のあるものを選別できるはずであり、またこれに続いて、選別されたDNAコードテンプレートのPCR増幅が可能になるはずである。この研究ではPCRや選別の実験は行われなかったが、二重鎖DNA産物が制限酵素で分解できたことで、TNA鎖の置換段階の効率が検証された。