天然物化学は、さまざまな生物が生合成する一連の化学物質の構造を見事に解明してきた。インドロカルバゾールアルカロイドは癌や神経変性疾患の治療薬としての可能性があることから、最近、注目を集めている。Sa´nchezらがProceedings of the National Academy of Sciences誌に発表した研究は、レベッカマイシンとスタウロスポリンの2つのインドロカルバゾールの生合成に新たな洞察を与えた。これに関連した論文をYehらが同誌に発表しており、それによると同氏らは、レベッカマイシン生合成の第一段階であるトリプトファン塩素化のメカニズムを検討した。
インドロカルバゾールを産生する微生物は、非リボソーム性のペプチドとポリケチドの生合成に使用される経路と類似した生合成経路を使用している。個々の変換を触媒する生合成酵素はモジュラー遺伝子クラスターから発現される。インドロカルバゾールアルカロイド生合成に関与する遺伝子クラスターは、これまでにいくつかの微生物で見つかっている。今回の研究のためにSa´nchezらは、さまざまな生物のレベッカマイシン合成クラスターから、いくつか組み合わされた遺伝子を発現するStreptomyces albus菌株を作製した。各菌株から産生されたアルカロイドを単離して特徴を調べたのち、同氏らは、インドロカルバゾールの中間体と目的の合成に関与する遺伝子を関連付けた(図1)。
Sa´nchezらの報告は、レベッカマイシンとスタウロスポリンの生合成経路を明らかにしたことに加えて、インドロカルバゾールアルカロイドライブラリの生合成工学に向けた第一歩を表すものである。同氏らは、彼らのコンビナトリアル生合成法を用いれば30を超えるインドロカルバゾール誘導体からなるライブラリを作製できることを実証した。天然物ライブラリを拡充すれば、生体システムの精査や治療への応用に向けた人工インドロカルバゾール類似体の開発に拍車がかかるかもしれない。
YehらがProceedings of the National Academy of Sciences誌の最近号に発表した関連の研究では、レベッカマイシン生合成経路の第一段階、すなわちトリプトファンの選択的塩素化が検討された(図2)。この研究で同氏らは、Lechevalieria aerocolonigenesからこの経路のタンパク質をコードしている2つの遺伝子rebFとrebHをクローニングした。他の研究室の研究と同じく同氏らも、RebFはNADH依存性フラビン還元酵素でありFADH2を産生することを示した。FADH2はRebHによって使用されてトリプトファンの塩素化を触媒する。反応速度研究から、FADH2の産生速度はトリプトファン塩素化の速度をはるかに凌ぐものであることが示された。RebFとRebHに直接的な関係が観察されていなかったことから、同氏らは、第一段階で産生されるFADH2はRebHの活性部位に自由に拡散すると推測した。同氏らはまた、in vitroでフッ化物イオンやヨー化物イオンではなく臭化物イオンがRebHの基質であることも示した。しかし、臭素化したトリプトファンは7-クロロ-トリプトファンよりも産生速度がかなり遅かった。
これらの研究に基づいて、Yehらはトリプトファン塩素化のひとつのメカニズムを提案した(図2)。すなわち、この経路にはFADH2と分子酸素との反応が関与しており、フラビンヒドロペルオキシド(FADH2-OOH)が産生される。塩素イオンがFADH2-OOHと反応してperoxychlorite中間体を形成し、これが芳香族置換反応の求電子剤となると提案した。このメカニズムは、van Pee´らが以前に提案したエポキシ化メカニズムとは異なるため、今後はこれらの仮説の違いを検討する研究が必要であろう。
Proceedings誌のこの2つの論文は、インドロカルバゾール生合成に新たな洞察を与え、新しいインドロカルバゾールアルカロイドを発見するための斬新な戦略を提供するものであるといえる。