基調講演

①「ライフサイエンス業界における人材採用の近況と今後の変化」

サイエンス・テクノロジー・システムズ株式会社 長屋州宣氏

ライフサイエンス業界の状況が厳しくなっている

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ベンチャー企業に求められる人材について話す長屋州宣氏(サイエンス・テクノロジー・システムズ株式会社)

最近、製薬企業の大型合併、大手IT企業のライフサイエンス部門がなくなるなど、ライフサイエンス分野の産業は非常に厳しい状況におかれている。私たちバイオベンチャーも付加価値の高いサービスを企業に提案していかないと生き残っていくのが難しい。

日本では、近年、アステラス、第一三共、大日本住友、三菱ウェルファーマと製薬会社の合併が続いている。また、世界的に見ても、ファイザー、グラクソスミスクライン、バイエル、アストラゼネカといった大手製薬企業が研究所の規模の縮小や閉鎖を行った。

また、国家プロジェクトの予算削減や重点項目のシフトも見られる。「タンパク3000プロジェクト」に続く「ポストタンパク3000プロジェクト」では予算が30%カットされた。これはすなわちポスドクの人数が3割減になるということもできる。

大学に新しく導入されたグローバルCOE制度では、従来のCOEと異なり、人件費は学生やポスドクの予算に使うことが決められていて、外注には使えない。これはベンチャー企業には頭の痛い問題だ。

バイオベンチャー企業自体も業績が不振で、研究職を採用して研究をするという従来の機能から、製品や特許を買う商社的な機能へ移行しているところもある。
IPO(新規公開株)の基準が適正化されたこともあり、IPOが停滞している。株式を上場したところでも業績がよくなく、また上場時の不正が発覚して、IPO企業が激減するという悪循環が起こっている。

大手メーカーの市場激減と人員分散が起こっていて、システムインテグレーターが撤退し、バイオバブル崩壊のきざしとも捉えられる。
さらに、インド、中国の台頭も大きな影響を与えている。優秀な人材でも人件費は日本の3分の1から5分の1で、日本では見られない博士号を持つ研究者が100人以上いる会社がある。

中国大陸でのオフショアビジネスも盛んで、治験が推進されている。日本での薬の承認には、日本人のデータは3割あればいいため、日本のCRO(医薬品開発業務受託機関)が中国に進出し、中国人での治験を行うようになってきた。

ベンチャー企業では問題解決能力や応用力が求められる

このようにライフサイエンス業界は厳しくなっているが、しかし、ベンチャー企業は逆境でこそチャンスがある。  ベンチャー企業に求められる人材は、

  • ①指示を待つのではなく、研究開発プロジェクトをマネジメントできる力がある、
  • ②どんなテーマであっても、高い問題解決能力がある、
  • ③専門外のことでも展開していける応用力がある、
  • ④高いコミュニケーション能力を持っている(ひとりの人間だけで完結する仕事はないし、ひとりでは完成できないレベルの価値の高いサービスをお客さまに提案する)
  • ⑤新しいものを考え出す革新力
  • ⑥専門分野の突出したスキル、技術、知識、あるいは苦手とするものも勉強して統合力をつける、
  • ⑦的確に伝える表現力
  • ⑧独立心、自分の担当した研究開発がどれくらいのお金になるのかといった経営の知識やセンスが挙げられる。

サイエンス・テクノロジー・システムズ株式会社は5年前に代表の福島信弘が設立し、当初はシステムインテグレーションを中心にしていたが、博士号を持つ社員が増え、研究支援やコンサルテーションの比重が高くなってきた。

コンサルティングとIT技術の両方を組み合わせて提供し、独自の研究開発も行っているのが特徴だ。 計算科学を中心にしたシステムインテグレーションを行っており、並列計算や量子計算などの特殊な計算システム、タンパクと低分子のドッキングシミュレーション、タンパク質の質量解析のシステムとデータ管理システムといった実績がある。

ライフサイエンスに特化したソフトのインストール、GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)に関するシステムの構築と運用なども行った。また、糖鎖や分子、ナノテクの共同研究も行っている。

ほかにも、インシリコ、NMRの共同開発などすべてにわたってのサービスを心がけており、コンサルティングに力を入れて、新たなサービスを提案して仕事を広げる形で進めている。 従業員30名中、学位を持つのは6名で、新たに3名が取得する予定。計算科学やタンパク質のX線・NMR(核磁気共鳴)による構造解析で博士号を取った者、製薬会社の研究開発の経験者、バイオインフォマティックスの専門家、ITの専門家がいる。それぞれがコミュニケーションを取り合って、価値の高いサービスを提供しており、社員はいろいろな知識を吸収できる。

高いビジネスマインドを持ち、弊社の基礎となるIT技術を習得し、得意分野の知識を極め、最終的には独立してコンサルテーションできるレベルへ成長できる人材を求めている。 修士号を持つ人が博士課程に社会人入学することも可能。現在も新たな人材を募集している。

②「研究者の多角的なキャリアパス提案 キャリアチェンジのすすめ」

NPO法人サイエンス・コミュニケーション 代表理事 榎木英介氏

雇用において大学院生・ポスドクと企業の間でミスマッチが起きている

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自身の経験も踏まえ、理系研究者のキャリアチェンジについて語る榎木英介氏(NPO法人サイエンス・コミュニケーション 代表理事)

文部科学省科学技術政策研究所の調べによると、大学院生やポスドクの数は年々増えており、就職率は5割強と低下している。ポスドクの高齢化も進み、2005年にはポスドクのうち、40歳以上の占める割合が約10%になった。

一方で、分野によっては理系研究者が不足し、中国で人手を探す企業や博士号を持った人が来てくれないと嘆く中小企業もある。大学院生やポスドクが持つ能力や要望と企業や社会が求める能力や要望とに乖離があり、求人求職にミスマッチが起きている。

理系の大学院生やポスドクには、アカデミックなポストか企業で研究をすることのみに縛られず、多様な職種に目を向けることを勧めたい。

研究職ではないキャリアパスにも目を向けてみよう

アメリカでPhD向けに発行されている『ALTERNATIVE CARRERS IN SCIENCE』には23種の「非研究職」が紹介されている。例えば、企業の役員、ライター、編集者、唐詩銀行員、アナリスト、規制に関する業務、弁理士、医科学コンサルタントなどである。

もちろん日本ではアメリカに比べ、年齢制限や年金の支払い手続きの問題などキャリアチェンジに不利な条件が多い。しかし、日本にも「キャリアチェンジャー」(注:榎木代表理事の造語)がいないわけではない。私たちが2006年11月に出した『失敗しない大学院進学ガイド 理工系&バイオ系』(日本評論社刊)で実例を紹介している。

生命科学系の博士号を持ち、ポスドクを経験したある女性は、科学関連の出版社を経て、証券会社でベンチャー企業への投資など担当している。

博士号や修士号を持って高校の教員になる人もいる。専攻した学問のみを教えられるわけではないが、団塊の世代の大量離職を受けて、比較的門戸が開かれている。

日本科学未来館には生命科学系博士号を持った「サイエンスインタープリター」がいて、展示の企画運営などを手がけている。このように博物館や研究機関などで働く科学コミュニケーターは今後も増える可能性がある。

ある人は生命科学系の博士号を持ち、アメリカでポスドクを経験した後、日本の出版社に入社して、科学に関連する本を編集している。

大学の広報という仕事もだんだん増えているようだ。東京大学では、物理学博士でポスドク経験がある女性が理学部准教授として広報を担当している。彼女は科学技術のおもしろさを伝えたくて、大学院在学中から子ども向けの科学雑誌に執筆していた。

私自身、東大理学系研究科博士課程を中退して医学部に編入学し、病理医となった。現在35を超える大学で医学部への学士編入学が可能で、研究経験を重視する大学もある。倍率が10倍から数十倍と高く、学費もかかるが、理系の学生のひとつのキャリアパスではある。

研究者が簡単に非研究職に就きたくないのは当然だが、例えば、引退した力士がちゃんこ料理店を開業したり、ちゃんこ料理店に就職したりしてからも、地域の有望な若者を相撲部屋に紹介するような相撲界のシステムを見習えないだろうか。

思うような仕事に就けなかったとしても発想を転換して、休日に科学コミュニケーターの役割を担うのはどうだろうか。研究経験や知識を生かし、実験教室の開催、科学館でのボランティアなどで、複雑化する科学と社会をつなぐ科学コミュニケーターは今後ますます重要になる。

研究職以外にも視野を広げるといろいろな職業があるし、専門性を生かす道はほかにもある。

③「研究職の国際的キャリアにおける考察」

理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB) 広報国際化室長 ダグラス・シップ氏

ポスドクのキャリアパスは世界的な問題

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多くのデータから研究職の現状を分析し、就職活動のポイントを語るダグラス・シップ氏(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター 広報国際化室長

1990年代後半くらいから世界では産業に替わり、知識経済を作ることが流行している。中国、カタール、ドバイなどで研究開発が政策となっており、研究者のモビリティーが高まるとともに基礎科学や研究開発への期待が高まっている。

とはいえ、研究者は有利なわけではない。競争の激化、非常勤ポストの増加、基礎科学に対する経済効果の期待(投資利益率の重視)、科学に対する批判や不信という現実があり、報酬は文系のほうが理系よりもはるかに高い。

米国実験生物学連合(FASEB)の調査でも、ライフサイエンス博士やポスドクが急激に増加しており、中でもビザを持つ外国人研究者が増え、アメリカに残る率が高まっている。 しかし、終身雇用(テニュアやテニュアトラック)のポストの数は増えず、終身雇用制度は絶滅の危機に立っている。そのため40代の「おやじポスドク」が誕生しているのが現状だ。日本でも同様の現象が起こっている。ポスドクのキャリアパスは世界的な問題である。

2005年から2006年にかけて、バイオテク企業は世界的に好調で、研究開発費は33%増、雇用者の数も30%増になった。バイオテク企業にとっては、高齢化社会の到来は薬の使用が増えるという理由で歓迎され、石油の枯渇、生活習慣病の増加、人口増加による危機、鳥インフルエンザ、環境の悪化はすべて追い風になる。そのため、ポスドクの雇用も増えた。

ところが、2007年は製薬業界が低調で、ファイザー社や世界最大のバイオベンチャーのアムジェン社も大規模なリストラを行い、海外へのアウトソーシングも増えている。先月の製薬会社トップ5とバイオテクベンチャーのトップ4の求人状況を調べたデータでは、研究開発関係の募集件数は全体の17%に過ぎない。

『Nature』の8月23日号には、イギリスの調査で「不景気な社会では、政府の基礎研究を見る目が冷たくなっているのでは?」という記事が掲載されている。その傾向はブッシュ政権になってからのアメリカにも見られる。しかし、日本はまだ基礎研究に対する評価は甘い印象がある。

情報を集め、自己PRすることで道を拓こう

研究や就職に関して厳しい時代であ、ウェブサイトでは地方のものを含め、求人情報が多く掲載されている。『Nature』『Science』のような科学雑誌、sciencejobs.comなどを見ると役に立つだろう。

就職を成功させるには、①情報を収集する、②機械が読める、あるいはネイティブスピーカーがチェックしたCVの準備、③自分のビジビリティーを向上させて自己PRをすること、④積極的なネットワーキングが挙げられる。

③の自己PRの方法としては、自分や自分のラボのHPの作成、ブログ、コミュニティーサイト、論文以外の執筆、機会があればどこでも発表するなどがある。

④のネットワーキングは日本人が苦手なようだ。学会や委員会、ワーキング・グループにボランティアで、あるいはネットワーキングのイベントに参加するといい。

不意の質問や状況に常に備えておくことも大切。アメリカの面接ではコミュニケーション力、TMAY(tell me about yourself)が最初から重視される。自分の現況、過去のハイライト、将来貢献できることをまとめておく。国際学会などではエレベーターで一緒になったときに30秒間自己アピールする「エレベーター・トーク」も重要だ。

研究マネジメントやバイオインフォマティックス、バイオファイナンス、特許、製薬プロセスなどのコースを取ってからポスドクになるのもいい。  就職活動はAttitude is Everythingであり、失敗を恐れないこと。また、科学の共通語はブロークンイングリッシュで、英語がそこそこできれば、海外でも仕事はできる。文系出身の私から見ると、研究者は非常に優秀。夢を捨てずに進んでほしい。

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