磁気による「折れ曲がり」?
May Chiao
かつて、従来型超伝導体における同位体効果の観測によって、フォノンによるクーパー対の形成が明確に示された。このほど、高温超伝導体において、磁気媒介超伝導の証拠となる磁気的な同位体効果が観測された。
高温超伝導体が発見された1986年当時、転移温度の達成可能最大値は、Bardeen 、Cooper、Schrieffer(BCS)の理論で予測されたように30Kだと考えられていた。そのためBednorzとMullerが、バリウムランタン銅酸化物系において、30Kで初めて転移を観測したことで、その後の20年間、そして現在、さらには今後の超伝導研究の方向性が変わった。それ以来、超伝導メカニズムをめぐっては、「(BCS 超伝導体の場合と同じように)フォノンによって電子対が形成するのか、それとも超伝導の『糊』は磁気に由来しているのか」という論点について激しい論争が続いている。このほどKensei Terashimaの研究グループは、後者だとする見解を発表した(Nature Physics 2, 2-31; 2006)。
Terashimaたちは、Bi2Sr2CaCu2O8+δ (Bi2212)において銅(Cu)を亜鉛(Zn) あるいは ニッケル(Ni) 原子に置換した。銅と異なり、ドーパント原子(亜鉛、ニッケル)は磁性体である。もし磁気励起(マグノン)が超伝導性と何らかの関係があるのなら、通常は非磁性の環境に磁性体を置くことは、重要な意味をもつことになる。これは、基本的には磁気的な同位体効果と言える。同位体効果とは、格子内で質量の異なる原子に置換することにより物性が変化することである。従来型のBCS超伝導体においては、転移温度が変動し、フォノンが電子対形成に関与していることが証明された。
Terashimaたちは、高分解能の角度分解光電子分光法(ARPES)を使って、 Bi2212 の背後にある電子構造を測定した。非ドープ試料の場合、電子が別のモード(フォノンあるいはマグノン)と結合することによって発生する、電子エネルギースペクトルでの「折れ曲がり」が50〜80 meV付近で起こる。このエネルギースケールは、フォノンとマグノンのエネルギースケールに近いため、それぞれを区別することが難しい。これに対してTerashimaたちは、異なるスピン状態の原子に置換すると、折れ曲がりがエネルギーギャップ極大の方向に弱まることを発見した。この折れ曲がりは、ドーピングや角度に依存しており、このことは、磁気励起が低エネルギーダイナミクスに影響を与えることを暗示している。このように低いドーピングレベルでは、質量変化はフォノンに影響を与えないと考えられているからだ。
以上の実験データは、高温超伝導体において磁気媒介の電子対形成が起こることを確かに示唆している。しかし現段階では、転移温度に影響を与えうるドーピングによる他の効果( 例えば不均一性)を軽視することはできない。今後の研究の進展が待たれるところだ。