急性冠症候群患者を対象とした早期侵襲的治療の最適な役割と時期とは?
原論文
de Winter RJ et al. for the Invasive versus Conservative Treatment in Unstable Coronary Syndromes (ICTUS) Investigators (2005) Early invasive versus selectively invasive management for acute coronary syndromes. N Engl J Med 353: 1095–1104
PRACTICE POINT(診療のポイント)
非ST上昇型の急性冠症候群患者においては、トロポニンT異常を伴う高リスク患者であっても、選択的侵襲的治療や薬物療法に比べ、早期侵襲的治療から利益が得られない可能性がある。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
FRISC II、TACTICS-TIMI 18、RITA-3などの試験に基づいて、ガイドラインでは、高リスクの非ST上昇型の急性冠症候群(ACS)患者に対する早期侵襲的治療が推奨されている。de Winterらは、各試験で使用された心筋梗塞(MI)の定義の違いと、現在使用可能な薬物療法を考慮したうえで、早期侵襲的治療の再評価を試みた。
OBJECTIVES(目的)
非ST上昇型で心筋トロポニンT濃度が上昇しているACS患者が、選択的侵襲的治療に比べ、早期侵襲的治療から利益を得られるかどうかを検討すること。
DESIGN(デザイン)
2000年7月から2003年8月のあいだに、18~80歳のACS患者をこの多施設共同無作為化試験に登録した。選択基準は、心筋トロポニンT濃度が0.03μg/L以上、無作為化前24時間以内の虚血症状の悪化または安静時の虚血症状、冠動脈疾患の既往歴、虚血性変化の心電図所見とした。除外基準は、無作為化前24時間以内のST上昇を伴うMI、線溶療法または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の必要性などとした。
INTERVENTION(介入)
患者を早期侵襲的治療群または選択的侵襲的治療群に無作為に割り付けた。無作為化後、早期侵襲的治療群の患者に対して24~48時間以内に血管造影を施行し、適切と判断された場合にはPCIを実施した。選択的侵襲的療法群の患者には薬物療法を行い、運動負荷試験中の虚血症状の悪化、難治性狭心症、または血行力学的不安定もしくは律動不整が認められた場合にのみ、血管造影と、可能であればPCIを施行した。全患者に対し、アスピリンを無作為化時に300 mgとその後1日75mg投与し、enoxaparinを1日2回最低48時間投与した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
複合主要エンドポイントは、無作為化後1年内の狭心症による入院、MI、死亡などとした。
RESULTS(結果)
適格患者1,200例中604例が早期侵襲的治療を、596例が選択的侵襲的治療を受けた。早期侵襲的治療群のほうが選択的侵襲的治療群より、1年後の狭心症による入院、MI、または死亡の発生率が高かった(主要エンドポイントに到達した患者数137例[22.7%]対126例[21.1%];相対リスク[RR]1.07、95%信頼区間0.87~1.33;P=0.33)。興味深いことに、両群間に1年後の死亡率の差は認められなかったが、MIの発生率は、早期侵襲的治療群のほうが選択的侵襲的治療群より高かった(90例[15%]対59例[10%];RR1.50、95%信頼区間1.10~2.04;P=0.005)。逆に、狭心症のための入院率は、選択的侵襲的治療群のほうが早期侵襲的治療群より高かった(64例[10.9%]対44例[7.4%];RR0.68、95%信頼区間0.47~0.98;P=0.04)。
CONCLUSION(結論)
de Winterらは、非ST上昇型ACS患者を対象とした早期侵襲的治療は、選択的侵襲的治療と比べて優れていなかったと結論付けたが、現在の至適薬物療法がこの結果に影響を与えた可能性を強調している。
KEYWORDS(キーワード)
COMMENTARY(解説)
William E Boden
急性ST上昇型MIの管理については明確に意見が一致しているにもかかわらず、非ST上昇型ACSの至適管理については依然として不明瞭なままである。いくつかの慎重にデザインされた無作為化臨床試験により、ルーチンの早期侵襲的治療と選択的侵襲的治療という2つの対照的な管理法と、それらがACS患者の臨床転帰に及ぼす影響が評価されている。
9,200例以上のACS患者を対象とした7件の無作為化試験のメタアナリシスでは、早期介入のもつ初期の有害性と後期の臨床的利益の両者について、相反するエビデンスが得られた1。しかし、さらに最近の試験では、ルーチンの早期侵襲的治療により転帰が改善されるという一致した結果が得られている2-4。したがって、ガイドラインでは、とくに最近の狭心症もしくは安静時の虚血、心筋トロポニンT上昇、新たなST下降、または臨床的もしくは血行力学的不安定を伴う高リスク患者のACS管理に対する早期侵襲的治療が支持されている5。この治療ガイドラインは、世界中の大多数の心臓病専門医に熱心に受け入れられている。
それにもかかわらず、今回取り上げたICTUS試験では、バイオマーカー陽性のACS患者がルーチンの早期侵襲的治療から利益が得られない可能性を示唆する興味をそそる結果が得られた。本試験の治験責任医師は、早期侵襲的治療により臨床転帰が有意に改善されると仮定したが、至適薬物療法を併用したにもかかわらず、トロポニンT陽性のACS患者において、早期侵襲的治療は、選択的侵襲的治療と比べて優れていなかった。ICTUSの全コホートにおいて1年死亡率が予想外に低く、選択的侵襲的治療群でイベント発生率が予想より低かった要因として、集中的な補助薬物療法、とくに積極的脂質低下療法が重要な役割を果たした可能性がある。多くの試験により、積極的スタチン療法、アスピリン、およびclopidogrelに関連する効果と、βブロッカーとアンジオテンシン変換酵素阻害薬の重要な役割が証明されている。ICTUSで示された低い1年イベント発生率は、このACS集団が「低リスク」であることを示すものと解釈すべきではない。それどころか、ICTUSの対象とされた全患者はトロポニンT陽性であった。したがって、これらの患者に対して行われた強力な薬物療法がリスクを軽減し、2つの治療法の効果を同程度にした可能性がある。
Mosesこれまでの試験により、ルーチンの早期侵襲的治療がACS患者のイベントを予防し、予後を改善することが支持されている一方で2-4、ICTUSでは血行再建術の施行率および時期がかなり異なっていたにもかかわらず、選択的侵襲的治療群の患者にとって有害な、または不利益なエビデンスはみられなかった(PCI施行までの期間の中央値は、選択的侵襲的治療群で11.8日、早期侵襲的治療群で23時間)。保存的治療群では1年間の追跡期間中に半数以上の患者が介入を受けており、介入率は過去の試験より高かったが、本試験では、より選択的で侵襲的な治療がルーチンの早期侵襲的治療と同等の臨床転帰をもたらすことが示唆された。
以上標本サイズ、検出力、比較的短い追跡期間などの懸案事項があるため、このICTUSの結果を臨床実践に一般化することには限界がある一方、本試験により、高リスクのACS患者においてさえも、早期介入の最適な役割と時期の再評価が促進される可能性もある。多くの医師は、早期心臓カテーテル法またはPCIをただちに施行できない場合がある。このためICTUSの知見は、短期間であれば確立された薬物療法によるACS患者の積極的治療が適切である可能性を示唆しているが、追加的な非侵襲的検査の必要性、または血管形成術用の設備が整った医療機関への転院の必要性に関しては、個々の患者の要求に応じて判断することができる。
References
- Mehta SR et al. (2005) Routine vs. selective invasive strategies in patients with acute coronary syndromes: a collaborative meta-analysis. JAMA 293: 2908–2917 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Fragmin and Fast Revascularisation during InStability in Coronary artery disease Investigators (1999) Invasive compared with non-invasive treatment in unstable coronary artery disease: FRISC II prospective randomised multicentre study. Lancet 354: 708–715
- Cannon CP et al. (2001) Comparison of early invasive and conservative strategies in patients with unstable angina and non-ST segment elevation myocardial infarction treated with the glycoprotein IIb/IIIa inhibitor tirofiban. N Engl J Med 344: 1879–1887 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Fox KA et al. (2002) Interventional versus conservative treatment for patients with unstable angina or non-ST-elevation myocardial infarction: the British Heart Foundation RITA 3 randomised trial. Randomized Interventional Trial of Unstable Angina. Lancet 360: 743–751 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Braunwald E et al. (2002) ACC/AHA 2002 guideline update for the management of patients with unstable angina and non-ST-segment elevation myocardial infarction—summary article: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association task force on practice guidelines (Committee on the Management of Patients With Unstable Angina). J Am Coll Cardiol 40: 1366–1374 | Article | PubMed | ISI |
