Practice Point

軽症または症状改善がみられても、脳卒中患者全員に組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)療法を行うべきか

原論文

Smith EE et al. (2005) Poor outcomes in patients who do not receive intravenous tissue plasminogen activator because of mild or improving ischemic stroke. Stroke 36: 2497–2499

PRACTICE POINT(診療のポイント)

症状が単調に改善する患者に対しては、急速な改善がほぼ完全な回復まで進展している場合を除き、血栓溶解療法を行うべきである。もっとも軽症の患者のみを除外すべきである。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

虚血性脳卒中のために受診しても、軽症または症状改善がみられるため、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)の静脈内投与が実施されない患者がいる。しかし、治療を行わないと入院が長期化したり、死亡したりすることさえある。

OBJECTIVES(目的)

虚血性脳卒中で軽症または改善傾向にある患者では、症状の重症度にかかわらずtPA治療を受けている患者に比べて、tPA治療の差し控えが転帰不良をもたらすかどうかを明らかにすること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

この後向き研究では、2002年~2004年に同じ脳卒中専門施設で行われた2件の前向き研究のデータを用いた。この研究でSmithらは、発症後3時間以内に受診し、CT血管造影、MRIまたはカテーテル血管造影を受けたがtPAの静脈内投与は受けなかった患者のデータを解析した。初診医が記録した臨床情報を用いて、治療を行わなかった理由を後向きに求めた。軽症または症状改善がみられるためtPA治療を受けなかった患者のみを解析対象とした。脳卒中の病態生理の特定には、急性期脳卒中治療におけるOrg 10172試験(Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment[TOAST])の基準を用いた。また、患者の回復または悪化の評価にはNIH脳卒中尺度を用いた。すなわち、初回評価時点からtPAを用いるかどうかの判断時までに4点以上増加した場合は「急速な回復」、tPAを用いるかどうかの判断時から退院時までに2点以上減少した場合は「神経学的悪化」とした。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

主要評価項目は、退院できない脳卒中患者の割合(%)とした。

RESULTS(結果)

解析対象患者431例中71例が発症後3時間以内に病院に到着した。計41例(58%)は脳卒中症状が軽症または改善傾向にあったためtPA治療を受けなかった。このうち11例は退院できず、5例に神経学的障害が持続的にみられ、6例では神経学的症状が悪化した。tPA治療を受けなくてもNIH脳卒中尺度で急速な改善が示されたのは10例(24.4%)であった。しかし、これらの患者の急速な改善は、その後に神経学的悪化が生じるリスクの増大と関連していた(相対リスク4.1、95%信頼区間[CI]1.1~15.4、P=0.05)。注目すべきことに、tPA治療を行わないと決定した後の神経学的悪化は、新たな血管領域ではなく、最初に虚血が生じたのと同じ領域で障害が増加したことによるものであった。

CONCLUSION(結論)

病院到着時、脳卒中症状が軽症または改善傾向にあったにもかかわらず、tPA治療を受けなかった相当数の患者で入院が長期化した。これは、神経学的障害の悪化が認められたためである。Smithらは、tPA治療がふさわしい脳卒中患者を特定するための基準を再評価する必要があることをこの知見は示している、と示唆している。

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COMMENTARY(解説)

Patrick D Lyden

tPA血栓溶解療法が脳卒中患者に有益であることを示したNINDS研究者による初期の報告は、早くから疑念をもって迎えられた1。しかし、血栓溶解療法は、時間をかけて証明され、いくつもの研究が繰り返されているだけでなく、現在では実践されていることがはっきりしている2。一部の医師にとって、軽症または急速な症状改善をみせる患者を治療すべきかどうかの判断は依然として大きな問題である。

マサチューセッツ総合病院のSmithらによるこの報告は、脳卒中の急性期治療の最前線にいる医師の多くが抱いていた逸話的な印象を確認するものとなった。すなわち、患者の状態は発症後1~2時間で急速に、しかも著しく変動するというものである。この報告はさらに、改善傾向の患者の治療を控えることは賢明でないことも確認している。その理由は、相当数の患者が死亡したり能力障害に陥ったりするからである3。この知見は、軽症または症状改善がみられる患者は治療してはならないという臨床勧告と矛盾する。しかし、急性期脳卒中に対する最初のtPA試験の著者ら(私自身その1人)は、Smithらが、症状が軽症または急速な改善がみられるとして除外していた患者を除外しなかった4,5。われわれの最初の報告では、除外した「軽症」患者は、純粋感覚性症状または純粋失調性症状などのごく軽度の症状を有する患者のみであった。NIH脳卒中尺度の点数が低い患者(孤立性の半盲または失語が2点)は対象に含めた。いわゆる「急速な改善がみられる」患者は、単調な改善を示す所見があることを注意深く観察したのち除外し、改善がみられない患者は対象に含めた。「軽症」または「急速な改善がみられる」患者では血栓溶解療法を控えるべきであるという臨床上の俗説は、おそらくわれわれの知見を十分に正しく認識しなかった他の研究者による発表後の混乱から生じたものであろう1

Smithらの知見を実行に移す前に、多数の超急性期患者でみられる臨床症状の変動のメカニズムを調べなければならない。本論文はこの点にかなり深い洞察を与えている。転帰不良を示す唯一の最大の危険因子は急速な改善であり、軽症または急速な改善がみられる患者は血管閉塞の可能性が高い。Smithらの推測によると(彼ら以前にも多くの研究者が推測していたように)、血管が閉塞すると、持続時間はさまざまであるが側副循環が維持され、側副循環も停止すると症状が発現する。この現象が生じるのかどうかわれわれはまだわかっていないが、10年前から私はこれが起こり得るものと考えており、このような症状をもつ患者には、血栓溶解療法や、血液量を過度に増大させたり(高血圧に対する放任的態度)、必要であれば血液を希釈したりするなど、側副循環を強化する治療を行ってきた。確信はないが、私の行った治療のほうがSmithらの治療や、その他いくつかの大規模調査(血管閉塞後に側副循環果たす役割を認識していなかった)で行われた治療よりも結果が良好であるという印象をもっている5

われわれは全員、この論文を踏まえて、適切な患者に対して早期に血栓溶解療法を用いること、そしてもっとも軽症の患者、たとえば純粋感覚性症状または純粋失調性症状を有する患者のみを除外すべきであることを学ばなければならない。症状が単調に改善する患者が安定しているかどうかを注意深く観察し、急速な改善がほぼ完全な寛解にまで至っている場合を除き、血栓溶解療法を行うべきである。

Acknowledgments

The synopsis was written by Hannah Camm, Associate Editor, Nature Clinical Practice.

References

  1. Caplan L et al. (1997) Should thrombolytic therapy be the first-line treatment for acute ischemic stroke? N Engl J Med 337: 1309–1310  | PubMed | ISI | ChemPort |
  2. Hacke W et al. (2004) Association of outcome with early stroke treatment: pooled analysis of ATLANTIS, ECASS, and NINDS rt-PA stroke trials. Lancet 363: 768–774  | PubMed | ISI |
  3. Barber PA et al. (2001) Why are stroke patients excluded from TPA therapy? Neurology 56: 1015–1020  | PubMed | ISI | ChemPort |
  4. The National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt-PA Stroke Study Group (1995) Tissue plasminogen activator for acute ischemic stroke. N Engl J Med 333: 1581–1588
  5. Lyden PD (2005) Thrombolytic Therapy for Acute Stroke. Totowa: Humana Press

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