極度に低いLDLコレステロール値はどの程度安全か?
原論文
Wiviott SDet al.; PROVE IT-TIMI 22 Investigators (2005) Can low-density lipoprotein be too low? The safety and efficacy of achieving very low low-density lipoprotein with intensive statin therapy: a PROVE IT-TIMI 22 substudy. J Am Coll Cardiol 46: 1411-1416
PRACTICE POINT(診療のポイント)
高用量スタチン療法のさいの副作用評価にあたっては、医師は警戒を怠ってはならない。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
Pravastatin or Atorvastatin Evaluation and Infection Therapy-Thrombolysis in Myocardial Infarction (PROVE IT-TIMI) 22のオリジナルの試験により、強化スタチン療法による治療を受けた急性冠症候群(ACS)患者は、標準的スタチン療法を受けた患者よりLDLコレステロールが大幅に低下し、臨床的有害事象が少ないことが明らかとなった。このような期待のもてる知見にもかかわらず、LDLコレステロール値の極度の低下に伴い安全性の懸念があるか否かは明らかでない。
OBJECTIVES(目的)
ACS患者のLDLコレステロール濃度を極度に低下させる強化スタチン療法の有効性と安全性を評価すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
オリジナルのPROVE IT-TIMI 22試験は、試験開始前10日以内に急性心筋梗塞あるいは非ST上昇型ASCを呈した患者を対象とした前向き対照試験であった。選択基準として、ACS患者はLDLコレステロールが6.2mmol/L未満(<240mg/dL)の者に限った。患者を1日につき80mgのアトルバスタチン投与(強化療法)または40mgのプラバスタチン投与(標準療法)に無作為に割り付け、両群にガチフロキサシンあるいはプラセボを併用投与した。本補足試験では、アトルバスタチンを投与され、LDLコレステロール値が2.59mmol/L未満(<100mg/dL)に低下した患者のデータのみを分析した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要エンドポイントは、死亡、心筋梗塞および脳卒中の複合とした。
RESULTS(結果)
強化スタチン療法を受けた患者2,099例のうち1,949例について、追跡後4カ月の時点でLDLコレステロール値が記録された。全体でLDLコレステロールが2.59mmol/L未満(<100mg/dL)の患者は1,656例あり、内訳は1.04mmol/L以下(40mg/dL以下)の患者が193例(10.5%)、1.04mmol/L超1.55mmol/L以下(40mg/dL超60mg/dL以下)の患者が631例(34.4%)、1.55mmol/L超2.07mmol/L以下(60 mg/dL超80mg/dL以下)の患者が576例(31.4%)、2.07mmol/L超2.59mmol/L以下(80mg/dL超100mg/dL以下)の患者が256例(13.9%)であった。LDLコレステロール値の低下に伴い、死亡、心筋梗塞および脳卒中の発生率が低下する傾向がみられた(それぞれ20.4%、20.4%、22.2%、26.1%;傾向のP値=0.1)。LDLコレステロール最高値の患者と比較すると、LDLコレステロールが最低値の2つの患者群では有害な心イベントが少ないことが多変量解析により明らかとなった(LDLコレステロール1.04mmol/L以下[40 mg/dL以下]、ハザード比0.67、95%CI 0.40~0.91;LDLコレステロール1.04mmol/L超1.55mmol/L以下[40mg/dL超60mg/dL以下])、ハザード比0.67、95%CI 0.50~0.92)。4つの患者群において黄紋筋融解症、肝臓関連の副作用、眼科関連有害事象、脳卒中の発生に有意差はなかった。LDLコレステロール最低値の患者には男性が多く、高齢で糖尿病のある傾向がより強かった。
CONCLUSION(結論)
ACS患者では、LDLコレステロール濃度が現在のガイドラインの推奨ラインを超えて低下することにより、スタチン療法関連の合併症リスクが増加することはなかった。また、このようなLDLコレステロール濃度の低下により、有害な心血管イベントの発生が減少した。
KEYWORDS(キーワード)
COMMENTARY(解説)
Sarkis B Baghdasarian and Paul D Thompson
PROVE IT-TIMI 22試験では、ACS患者を1日につき80mgのアトルバスタチン投与と40mgのプラバスタチン投与に無作為に割り付けた1。複合エンドポイントは、アトルバスタチン群において24カ月の追跡の平均で16%低下した。しかしこの強化スタチン療法は、極度に低いLDLコレステロール値に至ることの安全性に対する懸念を引き起こしている2。
Wiviottらによるこの補足試験の結果は喜ばしいものであるが、いくつかの問題点があり、積極的スタチン療法に関するこのように楽観的な結論を完全に受け入れることはできない。まず第一に、試験で治療を受けた患者と患者を治療した医師は、一般的な診療における患者および医師とは異なる。調査対象となった患者はより信頼性が高い傾向があり、治療チームは副作用の検出に熟練している可能性がある。第二に、本試験は4カ月のLDLコレステロール値が試験期間中の濃度を反映すると想定している。4つのLDLコレステロール群の患者総数は1,656例であるが、オリジナルの試験ではアトルバスタチン療法群の30.4%が薬物療法を早期に打ち切ったことが記されている1。結果として、PROVE IT-TIMI 22試験に組み入れられた当初の2.099例のうちアトルバスタチンによる治療を受けた患者1.461例だけが試験期間を通して薬物療法を受け、この脱落が、報告された副作用発生率の低さに寄与していることは疑いない。さらに、アトルバスタチン治療群のうち1.9%(患者約40例)においては、試験のある時期に薬物の用量が半減されていた1。仮にこれらの患者が治療を継続し重大な副作用を発現していたとしたら、Wiviottらの結論はまったく違ったものとなっていたことであろう。第三に、薬自体あるいは試験の設定のため、本試験や他の多くの試験3-5で報告されるように、スタチン療法による重大な副作用の発生はまれである。Treat to New Targets(TNT)試験では、1日につき80mgのアトルバスタチンを投与された患者のうち60例(1.2%)で肝酵素の値が上昇したのに比べて、10mg投与された患者では9例(0.2%)に上昇がみられたにすぎなかった(P<0.001)3。Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboratorsはスタチンに関する試験14件と患者90,056例のメタアナリシスにおいて、黄紋筋融解症の5年リスクの増加はわずか0.01%であり、プラセボで観察された値と有意差がないことを証明したが、これらの試験で高用量スタチン療法を用いたものはなかった4。これとは対照的に完全な投与を行った試験では、1日80mgのシンバスタチンによる治療を受けた患者250例のうち1例が正常値上限の10倍以上のクレアチンキナーゼ値を示した5。この試験では、有害事象1例を引き起こすために必要な患者数が、Wiviottらにより分析された一部のサブセットの対象数と近く、筋傷害のようにまれではあるが重大なスタチンの副作用について、サブグループ間の発生率の真の差をつきとめるためには、本試験のサブセットの規模は小さすぎることを示唆している。
PROVE IT-TIMI 22試験は、ACS患者における積極的脂質低下療法の利益を証明した。これらの結果は、LDLコレステロール値が極度に低下した個人間での副作用には差がないことを示している。しかし高用量のスタチン療法にあたって医師は警戒を怠ってはならない。スタチンによる重大な副作用はまれであるが、まず間違いなくスタチンの用量と関係があり、したがって積極的高用量スタチン療法によりその頻度は増すと考えられる。
Acknowledgments
The synopsis was written by Hannah Camm, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Cannon CP et al. (2004) Intensive versus moderate lipid lowering with statins after acute coronary syndromes. N Engl J Med 350: 1495–1504 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Pitt B (2005) Low-density lipoprotein cholesterol in patients with stable coronary heart disease—is it time to shift our goals? N Engl J Med 352: 1483–1484 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- LaRosa JC et al. (2005) Intensive lipid lowering with atorvastatin in patients with stable coronary disease. N Engl J Med 352: 1425–1435 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators (2005) Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90 056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet 366: 1267–1278
- de Lemos JA et al. (2004) Early intensive vs a delayed conservative simvastatin strategy in patients with acute coronary syndromes: phase Z of the A to Z trial. JAMA 292: 1307–1316 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
