高齢者における有害な心血管転帰の予測において、シスタチンCはクレアチニンより有効か?
原論文
Shlipak MG et al. (2005) Cystatin C and the risk of death and cardiovascular events among elderly persons. N Engl J Med 352: 2049-2060
PRACTICE POINT(診療のポイント)
腎不全の早期の兆候であっても、脳卒中、心筋梗塞、またはうっ血性心不全のリスクの増加を示唆している。このような症例では、蛋白尿を低減させる治療を行うべきである。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
腎機能障害は、高齢患者の死亡リスクを増加させる。シスタチンCは腎機能の内因性マーカーであり、高齢患者集団においてクレアチニンより信頼性の高い死亡リスクの指標となる可能性がある。
OBJECTIVES(目的)
高齢者における、心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞〔MI〕、死亡)と血清シスタチン、クレアチニン、糸球体濾過率との相関を比較すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
本コホート研究は、1989年1月から1993年6月にかけて実施されたCardiovascular Health Studyに登録された、解析用の血清が入手可能な、一般社会で生活している65歳を超える成人を対象とした。癌治療を受けている患者は除外した。1992年から1993年にかけて、血清標本、患者の人口統計学的データ、心血管リスク因子と罹病率に関するデータを収集した。血清クレアチニンとシスタチンCの濃度は、それぞれ比色定量法と免疫比濁法を用いて測定した。GFRはMDRDの計算式を用いて算出した。2001年6月まで、電話と年1回の通院により対象者の追跡調査を実施した。心血管イベントについては委員会が評価した。心血管死は、致死的な冠動脈性心疾患、心不全、末梢血管疾患、脳血管疾患による死亡と定義した。
RESULTS(結果)
全原因による死亡と心血管死、脳卒中および心筋梗塞の発症とした。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
全原因による死亡と心血管死、脳卒中および心筋梗塞の発症とした。
RESULTS(結果)
腎機能の各指標について、対象者4,637例(平均年齢75歳、女性58.3%)を五分位群に分割した。シスタチンCの濃度に基づいて、0.89mg/L以下、0.90~0.99mg/L、1.00~1.10mg/L、1.11~1.10mg/L、1.29mg/L以上の各群に分割した。第5五分位群を、さらに5a、5b、5c(それぞれシスタチン値1.29~1.39mg/L、1.40~1.59mg/L、1.60mg/L以上)に分割した。追跡調査期間の中央値は7.4年であった。全原因による死亡リスクは、第1五分位群と比較して、シスタチン値の上昇に伴って増加した。全原因による死亡に関する補正ハザード比は、第2五分位群で1.08(95%CI 0.86~1.35)、第3五分位群で1.23(95%CI 1.00~1.53)、第4五分位群で1.34(95%CI 1.09~1.66)、第5五分位群5aで1.77(95%CI 1.34~2.26)、第5五分位群5bで2.18(95%CI 1.72~2.78)、第5五分位群5cで2.58(95%CI 2.03~3.27)であった。補正ハザード比により、シスタチンと心血管死とのさらに強い相関が示された。シスタチンの最低五分位群と比較して、MIの補正リスクは最高五分位群で増加し、脳卒中のリスクは上位2つの五分位群で増加した。1.29mg/Lを超える血清シスタチン値は、0.99mg/L未満と比較して、全原因による死亡と心血管死、心筋梗塞、脳卒中の高リスクと関連していた。クレアチニン値と心血管死との相関は認められなかったが、全原因による死亡の補正リスクは、最低五分位群と比較して、最高五分位群で増加した。GFRの最低五分位群と比較して、全原因による死亡リスクと心血管死のリスクは、それぞれGFRの上位2つの五分位群、最高五分位群で増加した。MIと脳卒中の補正リスクは、クレアチニンまたはGERの推定値とは相関していなかった。
CONCLUSION(結論)
高齢者の心血管疾患の罹病と心血管死の予測において、血清シスタチンCは、クレアチニンまたはGFRと比べて有用であった。
COMMENTARY(解説)
Sreedhar Mandayam and William E Mitch*
ごく最近、慢性腎疾患(CKD)患者では、脳卒中、MI、うっ血性心不全などの主要な心血管イベントのリスクが増加するという問題が明らかにされた1。Goらは、GFRが低いほど、心血管イベントに起因する死亡リスクが高いことを示した2。これらに関連して、CKDのどの病期で心血管疾患が発症するのかという問いが最初に持ち上がった。この問いに対する簡潔な答えは、腎疾患の経過の早期と考えられる。HOPE TRIALにより、血清クレアチニン濃度が正常範囲を上回っている(つまり1.5 mg/dLを超えている)患者において、主要な心血管イベントのリスクが40%増加することが示された3。CKDと心血管疾患との関連において、この患者集団の心血管イベントを予防するためには何ができるのか、という2つ目の問いが浮上した。この問いに関する答えとしては、とくに蛋白尿が認められる場合には、レニンアンジオテンシン系の阻害が有効である可能性がある3,4。
CKD患者の心血管イベントを効果的に減少させる介入方法があるので、このような患者で心血管リスクの増加をより早期に発見できるか否かを検討することは有用である。Shlipakらは、この問題に取り組むため、米国の4つの地域で登録した4,637例の高齢者(65歳以上)を対象とした研究を実施した。1992年から1993年にかけて得られた血清シスタチンCとクレアチニンのベースラインの値を、7年後に評価した心血管転帰について解析した。著者らは、脳卒中、MI、うっ血性心不全の有病率が、ベースラインで驚くほど高いことを見出した。全体では、対象集団の21%とシスタチンC値の上位五分位群(平均血清シスタチン1.38 mg/dL)の患者43%が、脳卒中、MI、または心不全の既往歴を有していた。Shlipakらは、ベースライン時のシスタチンCのわずかな上昇でも、死亡または主要な心血管エベントの高リスクと関連しており、このマーカーが、血清クレアチニンと比べて、これらの転帰のより強力な予測因子であることを示した。
われわれはこの論文から何を学ぶことができるだろうか? シスタチンC(およびクレアチニン)値の最高五分位群の高齢患者における心血管疾患のリスクは非常に高かった。おそらく、ベースライン時にある程度の腎不全のリスクも高かったと考えられる。これらの結果は、とくにベースライン時に心血管疾患が認められる場合、CKDが主要な心血管イベントのリスクを増加させるという結論を十分に裏付けている1,3。この論文が、最初にシスタチンCまたはクレアチニンの値が正常な高齢患者において、腎疾患が心血管イベントを予測する主要因子であることを証明するものであるか否かはあまり明確ではない。第1に、対象とした高齢患者では、ベースライン時に重大な心血管疾患を有する頻度が高かった。第2に、介入している7年間に発症したイベントについての情報が示されていない。第3に、シスタチンCには(クレアチニンと同様に)、腎機能の指標として欠点がある。理想的なマーカーは、一定の速度で産生され、腎外からは排出されないことが望ましい。しかしながら、シスタチンCの産生速度についてのデータはほとんどなく、シスタチンC分子は腎外からもかなり排出される5。最後に、シスタチンCの測定は臨床現場で一般化されていない。しかし、以上の事柄とは別に、CKDと心血管イベントの関連が明らかにされたことで、CKDが心血管イベントを悪化させる原因を特定するためにさらなる研究の必要性が示唆される。
Acknowledgments
The synopsis was written by Chloe Harman, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Hostetter TH (2004) Chronic kidney disease predicts cardiovascular disease. N Engl J Med 351: 1344–1346 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Go AS et al. (2004) Chronic kidney disease and the risks of death, cardiovascular events, and hospitalization. N Engl J Med 351: 1296–1305 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Mann JF et al. (2001) Renal insufficiency as a predictor of cardiovascular outcomes and the impact of ramipril: the HOPE randomized trial. Ann Intern Med 134: 629–636 | PubMed | ISI | ChemPort |
- De Zeeuw D et al. (2004) Albuminuria, a therapeutic target for cardiovascular protection in type 2 diabetic patients with nephropathy. Circulation 110: 921–927 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Sjostrom P et al. (2005) Determination of the production rate and non-renal clearance of cystatin C and estimation of the glomerular filtration rate from the serum concentration of cystatin C in humans. Scand J Clin Lab Invest 65: 111–124 | PubMed | ISI | ChemPort |
