Practice Point

尿中ポリペプチドプロファイルはIgA腎症の診断に利用できるか?

原論文

Haubitz M et al. (2005) Urine protein patterns can serve as diagnostic tools in patients with IgA nephropathy. Kidney Int 67: 2313 –2320

PRACTICE POINT(診療のポイント)

顕微鏡的血尿、蛋白尿、血清IgAなど、いくつかの指標と、この新規のプロテオミクスに基づく手法は、腎生検前に行うIgA腎症の臨床診断として役立つと思われる。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

IgA腎症では、最終的に透析か腎移植が必要となるが、早期の診断と介入によって患者数は減少すると思われる。新たなプロテオミクスの手法は、この疾患の非侵襲的診断を可能にするであろうか?

OBJECTIVES(目的)

質量分析計と接続したキャピラリー電気泳動を用いて尿中の蛋白質を分析し、これによりIgA腎症患者と健常被験者、または他の糸球体腎炎患者との識別が可能かどうかを確かめること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

この前向き研究では、生検で確認されたIgA腎症患者または膜性腎症、および健常者を対象とした。早朝尿(初期尿後)の検体を、質量分析計と接続したキャピラリー電気泳動を用いて分析し、排泄された蛋白質の量、分子量、移動時間を測定した。移動時間と信号強度は標準化した。検体を比較し、IgA腎症患者と健常者、または他の糸球体疾患患者とを識別する蛋白質を特定した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

エンドポイントは、IgA腎症患者を、健常対照者、または他の糸球体腎炎患者と識別する尿中蛋白質の感度および特異度とした。

RESULTS(結果)

IgA腎症患者45例(平均41歳)、膜性腎症患者13例(平均43歳)、健常者57例(平均28歳)の尿検体を用いた。健常者の検体の50%以上で検出された146種類のポリペプチドを、「正常な」ポリペプチドパターンと定義した。これらのうち39種類は検体の90%以上で、73種類は70%以上で共通であった。パターンの年齢による変化はみられなかった。0.70を超えるdiscrimination factorsで、IgA腎症あるいは膜性腎症に罹患しているか、または糸球体疾患に罹患していないかを識別する22種類のポリペプチドを同定した。これらのうち12種類は健常者の検体よりIgA腎症患者の検体で多くみられた(25%以下対67%以上)。また、10種類はIgA腎症患者の検体より健常者の検体で多くみられた(32%以下対70%以上)。これらの頻度は、蛋白尿の程度、年齢、性別、血清クレアチニン値の影響を受けないようであったが、IgA腎症患者における頻度は、服用する降圧薬の数が増えるにつれて健常者の頻度に近づくようであった。このポリペプチドセットは、100%の感度と90%の特異度で、健常者と腎疾患患者を識別した。77%の感度と100%の特異度でIgA腎症と膜性腎症とを識別した、識別率が0.60以上の、28種類のポリペプチドセットを定義した。IgA腎症の検体における尿中蛋白質のパターンを、巣状分節性糸球体硬化症(n=10)、微小変化群ネフローゼ(n=16)、糖尿病腎症(n=23)の患者における、すでに確立したパターンと比較し、これにより、IgA腎症とこれらの疾患を100%の感度と特異度で識別できるポリペプチドセットを得た。

CONCLUSION(結論)

プロテオミクスに基づく方法により、高い感度と特異度で、IgA腎症患者を健常者、膜性腎症患者と識別することができた。

KEYWORDS(キーワード)

IgA腎症、非侵襲的診断、尿検査

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COMMENTARY(解説)

Yasuhiko Tomino

IgA腎症は、糸球体メサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増加のみられる腎症で、IgAの沈着を伴うものと定義される。この疾患は概して良性であるが、IgA腎症から慢性腎不全へ進行する例も、以前に考えられたほどまれではない。当初、IgA腎症の信頼できる診断は腎生検以外には確立できなかった。しかしわれわれは2003年に、顕微鏡的血尿(尿沈渣に5個以上の赤血球)、持続性蛋白尿(1日尿蛋白排泄量0.3g超)、血清IgA高値(3,150 mg/L超)、および3.01を超える血清IgA/C3比によって、IgA腎症と他の原発性腎疾患とを識別できることを報告した1。単球走化性因子(MCP-1)のような尿中サイトカインの測定も、この疾患の予後評価に役立つと考えられている2。これまで原発性糸球体腎炎患者では、尿蛋白はSDS-PAGEによって分析されてきた3-5。この手法を用いてBazziら3は、原発性糸球体腎炎患者の尿検体中にアルブミン重合体が存在することは、ネフローゼ症候群の発現および蛋白尿の程度と有意に相関することを発見した。

この論文でHaubitzらは、尿蛋白のパターンはIgA腎症患者の診断ツールとして役立つと報告している。彼らの研究では、IgA腎症患者または膜性腎症患者、および健常対照から得た尿検体のポリペプチドパターンは、新規の高速処理法である、質量分析計(? spectrometry)と接続したキャピラリー電気泳動(CE-MS)によってスクリーニングされた。IgA腎症患者の尿中ポリペプチドのパターンは、膜性腎症患者、健常対照のものとは異なっており、IgA腎症に特有のポリペプチド排泄パターンが示唆された。Haubitzらは、CE-MSを用いた尿のプロテオミクス分析は、IgA腎症に対し、迅速で再現可能な、感度のよい診断法であると結論した。

Haubitzらが提案した、腎生検より前に行うIgA腎症の診断法は非常に興味深い。しかしこの研究では、IgA腎症患者45例、膜性腎症患者13例しか検討していない。また、糸球体腎炎の他の型における尿ポリペプチドのパターンを考察することも重要である。著者らは、CE-MSにより、1つの尿検体中の最大2,000種類のポリペプチドを、すばやく正確に分析できると考えている。しかし彼らは、膜性増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎などの他の糸球体腎炎から識別するには2,000種類以上のポリペプチドのセットが必要ではないかと考えている。さらに、この方法をIgA腎症の診断に用いる前に、IgA腎症患者における病理組織学的所見と尿中ポリペプチドとの関連を明らかにする必要があるだろう。今回の研究では、降圧薬の数が増えるにつれて、いくつかのポリペプチドの尿中排泄量は「正常」になっていく傾向がみられた。これは、IgA腎症患者の尿中ポリペプチドパターンは、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、コルチコステロイドを用いた治療によって変化し得ることを示している。それでもHaubitzらは、尿中ポリペプチドのパターンを分析することによって、IgA腎症を疑われる患者の腎生検は不要になるかもしれないと推測する。将来、著者らがIgA腎症と他の糸球体腎炎とを識別する高い能力をもつことを確認したポリペプチドをより詳細に分析すれば、IgA腎症の発症機序の解明に役立つかもしれない。

Acknowledgments

The synopsis was written by Chloe Harman, Associate Editor, Nature Clinical Practice.

References

  1. Maeda A et al. (2003) Significance of serum IgA levels and serum IgA/C3 ratio in diagnostic analysis of patients with IgA nephropathy. J Clin Lab Anal 17: 73–76  | Article |
  2. Saitoh A et al. (1998) Urinary levels of monocyte chemoattractant protein (MCP)-1 and disease activity in patients with IgA nephropathy. J Clin Lab Anal 12: 1–5  | Article |
  3. Bazzi C et al. (1997) Characterization of proteinuria in primary glomerulonephritides: urinary polymers of albumin. Am J Kidney Dis 30: 404–412
  4. Woo KT et al. (2000) ACEI/ATRA therapy decreases proteinuria by improving glomerular permselectivity in IgA nephritis. Kidney Int 58: 2485–2491  | Article |
  5. D'Amico G and Bazzi C (2003) Pathophysiology of proteinuria. Kidney Int 63: 809–825  | Article | PubMed |

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