経口避妊薬は糖尿病女性におけるレニン・アンジオテンシン活性の上昇および腎障害のリスクと関連しているか?
原論文
Ahmed SB et al. (2005) Oral contraceptives, angiotensin-dependent renal vasoconstriction, and risk of diabetic nephropathy. Diabetes Care 28: 1988–1994
PRACTICE POINT(診療のポイント)
腎不全経口避妊薬が1型糖尿病女性における腎症発症の危険因子となり得ることを認識すべきであるが、そのような患者においてこれらの薬剤の使用を中断すべきではない。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
腎機能障害レニン・アンジオテンシン系(RAS)の活性化は、糖尿病腎症の発症と関係づけられている。経口避妊薬はRASの活性化と関連しているが、それらが糖尿病女性の腎臓に与える影響は知られていない。
OBJECTIVES(目的)
経口避妊薬が糖尿病女性の腎臓RAS活性に与える影響を確かめ、これらの薬剤が糖尿病腎症のリスクの増加と関連しているかどうかを決定すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
2つの研究を実施した。第1の研究では、経口避妊薬を利用しているか、または利用していない1型糖尿病もしくは2型糖尿病の患者と健常者を登録した。このプロトコールでは、試験登録前の4日間に毎日200mmol以上のナトリウムを摂取し、かつ試験の2週間前までにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬およびアンジオテンシン受容体ブロッカーの使用を中止していることと規定した。カプトプリル25mg経口投与の前および後に、p-アミノ馬尿酸とイヌリンのクリアランスを記録した。第2の研究は、1979年9月1日から1984年8月31日のあいだにデンマークのSteno Diabetes Centerに来院し、新たに1型糖尿病と診断されたすべての女性を対象とする前向きコホート試験の事後解析である。この研究では、少なくとも年1回、血圧と24時間尿中アルブミン排泄量(UAE)を評価した。1年以上にわたる連続3回の検査のうち、2回で30~300mg/24 hまたは300mg/24 h以上のUAEが得られた場合に、それぞれミクロアルブミン尿、マクロアルブミン尿と定義された。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
エンドポイントは、カプトプリル投与後における腎血漿流量(RPF)の変化、およびマクロアルブミン尿症の発生率とされた。
RESULTS(結果)
第1の研究には、糖尿病女性41例(1型糖尿病患者28例、経口避妊薬利用者12例および非利用者29例)と非糖尿病女性51例(経口避妊薬利用者10例、非利用者41例)が参加した。ベースライン時の人口統計学的および臨床的な特性の大部分は、2つの研究の参加者間で同様であった。非糖尿病女性では、経口避妊薬の服用者でのみカプトプリルの経口摂取後にRPFの有意な増加がみられた(P=0.02)。経口避妊薬を服用していない女性では、糖尿病でない人に比べて、糖尿病の患者でカプトプリルが誘導するRPFの上昇率が有意に高かった(P<0.0001)。糖尿病女性では、カプトプリルへの反応は経口避妊薬利用者では非利用者よりも強かった(P=0.04)。患者25例のサブグループでは、カプトプリルに対するRPFの反応はアンジオテンシン受容体ブロッカーに対するRPFの反応と相関していた(決定係数r2=0.52、P<0.001)。第2の研究では、経口避妊薬利用者33例と非利用者81例を対象とした(フォローアップ期間の中央値はそれぞれ21.4年と20.2年)。利用者では非利用者よりもマクロアルブミン尿を発症した者が有意に多かった(患者6例対2例、18%対2%、P=0.003)。ミクロアルブミン尿を発症した患者の割合は、群間で有意に違わなかった。血圧および糖尿病の発症年齢について修正した単変量回帰分析では、経口避妊薬の使用がマクロアルブミン尿の発症リスクの増加と相関することが示された(相対危険度8.90、95%信頼区間1.79~44.36;P=0.008)。
CONCLUSION(結論)
経口避妊薬は、糖尿病女性における腎臓のRAS活性化の上昇、およびマクロアルブミン尿の発症リスクの増加と関連している。
KEYWORDS(キーワード)
COMMENTARY(解説)
糖尿病腎症は糖尿病の主要な合併症の1つであり、糖尿病の障害発生率と死亡率に有意に寄与している1。糖尿病腎症の発症と進行を防ぐには、RASを阻害する薬剤が中心的な治療薬となる。高血糖、酸化ストレス、後期糖化生成物、物理的な伸展、蛋白尿などはすべて、糖尿病患者におけるアンジオテンシンIIの腎内生成を刺激する。アンジオテンシンIIは多くの炎症誘発性、線維素溶解促進性のサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子(糖尿病腎症の発症に大きく関わる)を腎細胞中で誘導する2。
エストロゲンがRASに与える影響は複雑である。エチニルエストラジオール(経口避妊薬の主成分)はアンジオテンシノーゲンの合成を刺激し、腎臓のアンジオテンシンII産生を増加させるが、同時にレニン血漿活性を抑制し、ACE活性を低下させる3。経口避妊薬は、アンジオテンシンII2型受容体の発現増加を促進し、それによってアンジオテンシンII2型受容体とアンジオテンシンII1型受容体の発現バランスを変化させる。糖尿病の女性に対しては、制御の不完全なグルコース代謝環境下での予期せぬ妊娠に関連する重篤な合併症を防ぐために、経口避妊薬の服用がしばしば勧められている4。そのため、Ahmedらは経口避妊薬の使用がRAS活性に影響するかどうか、またこの集団における糖尿病腎症の発生に寄与しているかどうかを検討した。
われわれはこの本研究は経口避妊薬の使用が糖尿病腎症の危険因子となり得ることの説得力のあるエビデンスをいくつか示している。しかし、対象となった患者数は少なく、この知見を確かめるにはより大規模な前向き研究が必要となるであろう。経口避妊薬を服用している糖尿病女性では、経口避妊薬を服用していない糖尿病女性よりも、マクロアルブミン尿の発症リスクが有意にかった。しかし、ミクロアルブミン尿を発症した患者の割合に関しては、2群間に有意な差はみられなかった。これはサンプルサイズが小さかったためかもしれない。あるいは経口避妊薬の使用は、糖尿病腎症の開始に寄与するというよりも、むしろミクロアルブミン尿からマクロアルブミン尿への糖尿病腎症の進行を加速させることを示しているのかもしれない。経口避妊薬が腎臓に与える有害な効果は、RASの腎内活性化が関与していると考えられるため、RASの阻害(たとえば、ACE阻害薬とアンジオテンシン受容体ブロッカーによる二重の遮断)はこのような作用を抑えるはずである。実際、Ahmedらが実施した集団試験において、ACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体ブロッカーを服用していた患者はごく少数のみであった。興味深いことに、エストロゲンとプロゲステロンは血管の構造と機能に対する防護効果も有していると考えられている5。
糖尿病の女性においては、妊娠中に母体および胎児に重度の合併症が生じるのを防ぐために、受胎前に正常な血糖値を達成することが不可欠であるが、そのような患者に経口避妊薬の使用中止を推奨すれば、計画外の妊娠の数を増加させてしまうことにもなりかねない。1型糖尿病女性の治療を担当する医師は、さらに詳細な前向き研究の結果が利用できるようになるまでは、経口避妊薬と糖尿病腎症発症のあいだの潜在的な関連性に注意する必要があるが、このような集団において経口避妊薬の使用を中止すべきではない。経口避妊薬を服用している糖尿病女性においては6カ月ごとにアルブミン尿をモニターすべきであり、ミクロアルブミン尿(UAE=3~300mg/24 h)が検出された場合は、最大の腎臓保護効果を得るためにただちにACE阻害薬による処置を開始すべきである。
Acknowledgments
The synopsis was written by Chloe Harman, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Wolf G (2004) New insights into the pathophysiology of diabetic nephropathy: from haemodynamics to molecular pathology. Eur J Clin Invest 34: 785–796
- Wolf G et al. (2003) The renin–angiotensin system and progression of renal disease: from hemodynamics to cell biology. Nephron Physiol 93: P3–P13 | PubMed |
- Kang AK et al. (2001) Effect of oral contraceptives on the renin angiotensin system and renal function. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 280: R807–R813 | PubMed | ISI | ChemPort |
- Bernasko J (2004) Contemporary management of type 1 diabetes mellitus in pregnancy. Obst Gynecol Survey 59: 628–636
- Khalil RA (2005) Sex hormones as potential modulators of vascular function in hypertension. Hypertension 46: 249–254 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
