人工心肺使用中の血液希釈および輸血が腎臓の予後に与える影響
原論文
Habib RH et al. (2005) Role of hemodilutional anemia and transfusion during cardiopulmonary bypass in renal injury after coronary revascularization: implications on operative outcome. Crit care Med 33: 1749-1756
PRACTICE POINT(診療のポイント)
人工心肺使用中の輸血は、腎臓およびその他の術後の合併症の原因となる可能性があり、その実施は血液希釈のあらゆる原因を最小限に抑えたうえで検討すべきである。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
人工心肺(CPB)使用中の血液希釈による貧血は、手術の予後不良と関連付けられてきた。しかし、ヘマトクリット値の悪化、ならびに人工心肺の使用時間および術中の輸血の影響については明確でない。
OBJECTIVES(目的)
CPBの使用時間、CPB使用中の輸血およびヘマトクリット最低値が、術後の腎障害リスクに与える影響、ならびにこのような腎傷害が手術の予後に与える影響を明確にすること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
Saint Vincent Mercy Medical Center(米オハイオ州、Toledo)で冠動脈バイパス術およびCPBを施行された成人から収集したデータを後ろ向きに検討した。既存の腎不全は除外基準とした。1995年~1996年および2002年7月以降のCPB使用前後のクレアチニン値を入手した。ヘマトクリット最低値、CPBの使用時間および輸血と腎臓に関する評価項目との関係を評価するために、多変量回帰分析、傾向モデルおよび重複する五分位のサブグループの解析を行った。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要評価項目は、CPB使用後の血清クレアチニン値およびクレアチニンクリアランスにおけるピーク時の割合の変化、腎障害(クレアチニン値のピーク時の割合の変化>50%)急性腎不全(ARF、血清クレアチニン値≧2.1mg/dL≧[185.64μmol/L]、術前レベルの2倍以上)とした。入院期間および30日死亡率も記録した。
RESULTS(結果)
解析した1,760人の患者(平均年齢64歳、31%が女性)中、CPB使用前のヘマトクリット最低値およびクレアチニン値、CPB使用後のピーク時のクレアチニン値、ならびにクレアチニン値の変化のバラつきは大きかった。患者25例が死亡し(1.4%)、285例が腎障害を発症し(16.2%)、89例がARFを発症した(5.1%)。ヘマトクリット最低値の重複五分位群を解析すると、ヘマトクリット最低値が約24%未満ではクレアチニン値のピーク時の割合変化はほぼシグモイド状に増加した(P<0.001)。これに対して、クレアチニンクリアランスの変化をヘマトクリット最低値のサブグループに対してプロットすると、逆シグモイド状の相関関係が認められた(P<0.001)。シグモイド状の相関は、術後の腎障害およびヘマトクリット最低値を伴うARFの発症率でも認められた(両者ともP<0.001)。特定のヘマトクリット最低値で、腎障害およびARFの発症率は、非輸血患者(78.1%、n=1,375)を解析したときのみ低下した。人口統計学特性および術式が類似する輸血患者と非輸血患者とを比較した傾向分析において、輸血患者では腎障害(P=0.003)およびARF(P=0.001)の発症率が高かった。任意のヘマトクリット最低値で、CPBの使用時間が90分を超えた患者の腎障害およびARFの発症率は、CPBの使用時間が90分以内の患者より高かった。多変量回帰分析では、高ARF発症リスクとの相関は、ヘマトクリット最低値が20%未満では有意、20%~24%では有意ではなかった(P=0.004およびP=0.074)。手術死亡率および入院期間は、腎障害およびARF発症患者で増加した(どちらもP<0.001)。
CONCLUSION(結論)
CPB使用中の24%未満のヘマトクリット最低値は、腎障害リスクの増加と関連しており、とくにCPBの使用時間が長期に及び、輸血が行われるとリスクが増加すると、著者らは結論付けている。
COMMENTARY(解説)
Mark Stafford-Smith and Mark F Newman
CPB使用中の非常に低いヘマトクリット値(20%未満)は、心臓手術後の腎不全を含む有害転帰の重要な予測因子として注目を浴びつつあり、CPB使用中の重篤な貧血を容認するという臨床医のこれまでの決断は近年疑問視されている1,2。皮肉なことに、CPB使用中の極度の血液希釈を容認するための選択肢の1つである輸血も、予後不良のリスク因子と見なされている1。心臓手術後の急性腎不全はよくみられ、死亡率および他の主要な術後合併症との関連性が高い。したがって、CPB使用中のヘマトクリット値および輸血の最適な管理方法を明確にすることが早急に必要である。
Habibらは、大動脈冠動脈バイパス術患者1,760人において、CPB使用中のヘマトクリット最低値の変化、輸血管理およびその他の腎臓のリスク因子に対する腎臓の予後を後ろ向きに評価した。この解析は目新しいものではないが、CPB使用中の極度の貧血および輸血と腎臓リスクとの関連性を確認した5報の論文の1つである。それでもなお、この論文は興味深い研究方法をとっている。腎障害の報告として認められた4種類の方法を用いて、著者らは、CPB使用中のヘマトクリット値と腎臓の転帰との関連性における赤血球輸血の役割およびCPBの使用時間について調べると同時に、CPB使用中の有害なヘマトクリット値を決定する閾値を探索した。
著者らは、CPB使用中のヘマトクリット最低値は腎不全と関連があり、閾値24%未満ではほぼシグモイド状の閾値効果を認めた。輸血患者を除外すると、やはり24%未満で類似しているが弱い閾値効果が認められた。最後に著者らは、長時間に及ぶCPBの使用は、CPB使用中のヘマトクリット最低値が24%未満で腎不全に及ぼす影響が大きくなることを見出した。
この研究のもっとも興味深い所見は、ヘマトクリット最低値と腎不全とのシグモイド状の関係であることは明らかである。この研究は、輸血およびより長時間のCPB使用と、術後の腎障害との相関関係においても、この閾値効果があることを確認している。これらの所見は他の所見と矛盾せず、それらを拡大するものである。Swaminathanらの線形解析では、ヘマトクリット最低値が24%未満が術後の腎不全に及ぼす輸血の影響が明らかにされた1。閾値効果を探索した他の唯一の報告で、Karkoutiらは、CPB使用中のヘマトクリット最低が21%未満のときに、最低値が21~25%のときと比較して透析リスクが2.3倍増加することを示した3。Karkoutiらの研究では、とくにヘマトクリット値の閾値および腎臓の評価項目(透析)の設定がより厳しかった。Karkoutiらは、ヘマトクリット高値(>25%)で透析リスクが増加することも示したが、Habibらはこの問題を扱わなかった。
この問題についてのHabibらおよび他の研究者らの所見は価値があるが、この研究の後ろ向きのデザインは、CPB使用においていつ輸血するのか(またはしないのか)、あるいは重篤な貧血を容認するかどうかについての指針にとっての価値を大幅に減じている。高(>27%)、標準(24%)または低(15~17%)とした目標ヘマトクリット値を達成するCPBプロトコールで管理された163人の患者が参加したBarbeitoらの最近の前向き研究41では、腎保護の方法は見出されなかった。Habibの論文に添えられた編集コメントは、CPB中の輸血および血液希釈について「あちらを立てればこちらが立たず」という困惑に臨床医が直面することを強調している5。CPB使用中のヘマトクリット値の最適な管理方法を明らかにするためには、主要研究機関が資金を提供した大規模前向き無作為化研究が必須である。
Acknowledgments
The synopsis was written by Chloë Harman, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Swaminathan M et al. (2003) The association of lowest hematocrit during cardiopulmonary bypass with acute renal injury after coronary artery bypass surgery. Ann Thorac Surg 76: 784–791 | Article | PubMed | ISI |
- Fang WC et al. (1997) Impact of minimum hematocrit during cardiopulmonary bypass on mortality in patients undergoing coronary artery surgery. Circulation 96 (Suppl II): 194–199
- Karkouti K et al. (2005) Hemodilution during cardiopulmonary bypass is an independent risk factor for acute renal failure in adult cardiac surgery. J Thorac Cardiovasc Surg 129: 391–400 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Barbeito A et al. (2005) Hemodilution and acute renal injury: the relationship of three different target CPB hematocrit strategies with post-cardiac surgery renal dysfunction. Anesth Analg 100: SCA18
- Spiess BD (2005) Choose one: damned if you do/damned if you don't! Crit Care Med 33: 1871–1874 | Article | PubMed | ISI |
