小児1型糖尿病において、診断から5年後の糸球体濾過率はアルブミン尿の発現と関連しているか?
原論文
Amin R et al. (2005) The relationship between microalbuminuria and glomerular filtration rate in young type 1 diabetic subjects: the Oxford Regional Prospective Study. Kidney Int 68: 1740–1749
PRACTICE POINT(診療のポイント)
1型糖尿病患児では、濾過過剰が微量アルブミン尿の発現リスクの有用な指標である。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
糸球体濾過過剰は1型糖尿病の早期によくみられ、腎損傷を示す。しかし、既存のデータは矛盾している。
OBJECTIVES(目的)
小児1型糖尿病において、診断から5年後の糸球体濾過率(GFR)に対するアルブミン尿の長期変化を明らかにすること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
Aminらは、オックスフォード地区前向き研究(Oxford Regional Prospective Study)のデータを報告している。1986年から1997年まで、過去3カ月以内に1型糖尿病と診断された、英国オックスフォード地区保健当局の担当区域に住む16歳未満の被験者を本研究に登録した。毎年、連続して3検体の早朝尿を採取し、この検体からアルブミン・クレアチニン比(ACR)を幾何平均とした。毎年HbA1c(糖化ヘモグロビン)を測定した。5年後にGFR(血漿イヌリンクリアランス)を求めた。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
微量アルブミン尿(連続3検体の早朝尿のうち2検体において、ACR>3.5mg/mmolかつ<35mg/mmol[男性]、または>4.0mg/mmolかつ<35mg/mmol[女性])を主要評価項目とした。
RESULTS(結果)
308児で5年後のGFR値が得られ、追跡調査期間の中央値は6.8年(10~11.1年)であった。合計243例の患者(78.9%)は試験期間中、正常な尿中アルブミン排泄があり、35例(11.4%)は糖尿病と診断後5年以内に微量アルブミン尿を呈し、30例(9.7%)が診断後5年以上経過してから微量アルブミン尿を発現した(微量アルブミン尿発現までの期間中央値はGFR測定後3.3年)。微量アルブミン尿患者は、正常アルブミン尿患者に比して平均して評価時の年齢が高かったが、これ以外に5年後の患者背景に関して両群で差はなかった。5年後には205例(66.6%)で濾過過剰(GFR>125mL/min/1.73m2)が認められた。糖尿病の診断後5年以上経過してから微量アルブミン尿が発現した患者は、試験登録後5年以内に微量アルブミン尿が発現した患者および試験期間中に正常アルブミン尿であった患者よりも濾過過剰を呈する割合が高かった(有病率:96.7%対57.1%、64.2%。P=0.006)。Cox回帰分析によると、HbA1cの1%上昇、ACRの1mg/mmol減少および思春期開始(11歳とする)は、5年後の濾過過剰尤度の増加と関連していた(それぞれ10%、30%、70%)。連続変数として処理すると、ACRのみが5年後に非濾過過剰患者よりも濾過過剰患者で有意に高かった(P=0.003)。5年後に正常アルブミン尿を示した患者を対象にCox回帰分析を行ったところ、HbA1cの1%上昇およびGFRの10mL/min/1.73m2増加は、その後の微量アルブミン尿発現リスクの増加と関連していた(それぞれ30%、22%)。単変量解析によると、5年後の濾過過剰と尿ACR増加はHbA1c値とは独立して関連していた(B統計[B statistic]0.13、95%CI 0.03~0.22、P=0.008)。
CONCLUSION(結論)
1型小児糖尿病において、診断から5年後の糸球体濾過過剰は、HbA1c値とは独立してその後のアルブミン尿増加と関連する。
KEYWORDS(キーワード)
小児、糸球体濾過率、濾過過剰、微量アルブミン尿、1型糖尿病
COMMENTARY(解説)
Shin-ichi Araki
糖尿病腎症が末期腎疾患の主な原因になってきている。しかし、疫学研究の結果では、糖尿病腎症を発症する1型糖尿病患者は1/3にすぎない。このため、このような患者の早期発見が転帰改善のためには重要である。
これまでの研究は、GFRが上昇すると(濾過過剰と呼ばれる)、糖尿病患者は微量アルブミン尿を発現しその後腎症へと進行する傾向があると報告している。しかし、濾過過剰は微量アルブミン尿の発現リスクに影響を及ぼすとの考えには議論の余地がある。Aminらは、糖尿病の診断から5年経過した正常アルブミン尿患者は、血糖コントロールと関係なくその後5年間に微量アルブミン尿を発現する頻度が高いことを明らかにした。この関連は思春期でとくに高かった。このことから、思春期のGFRモニタリングが、微量アルブミン尿の発現リスクのある1型糖尿病児を特定するうえで有用な方法と考えられる。
1型糖尿病児における糖尿病腎症の発現リスクを抑えるには、濾過過剰の予防が重要であろう。このリスクを低下させる1つの方法は、血糖コントロールを良好に維持することである。今回の研究で、濾過過剰とHbA1c低値(<10%)が認められる患者は、濾過過剰とHbA1c高値(≧10%)が認められる患者よりも微量アルブミン尿発現リスクが低かった。この結果は、糖尿病腎症の発現リスクを抑えるうえで血糖コントロールが重要であることを明確に示している。一般に、糖尿病管理における標準的治療とは、できるだけ安全に、正常値近くで血糖コントロールを維持することであるが、低い目標血糖値を達成することのベネフィットと再発性および消耗性の低血糖症が発現するリスクを比較検討しなければならない。米国糖尿病学会の現在の推奨では、年齢別に血糖およびHbA1cの目標値が規定されている1。レニン・アンジオテンシン系遮断がもう1つの有効な介入法であるが、残念ながら、GFR増加に対するこのアプローチの影響に関しては今回の研究範囲を超えている。
糸球体濾過過剰に介在する要素として、血糖コントロールが良好でないこと以外にも、たとえば高蛋白質負荷など、いくつかの要素が提唱されている2。今回の研究は、思春期が濾過過剰の危険因子であり、すなわちホルモンの変化が関与することを示した。新しい治療戦略を開発するために、ホルモンの変化およびその他の思春期の危険因子がGFR増加に及ぼす作用を明らかにしなければならない。
GFR測定値は腎機能全体の最良の指標である。この研究では、GFRはInutestの血漿クリアランスにより評価され、真のGFRとよく相関した(Inutestはクロム51-エチレンジアミン四酢酸[51Cr-EDTA]のクリアランス測定よりも簡便な方法である)。しかし、比較的簡単な方法とはいえ、必ずしも日常診療に使えるわけではなく、とくに小児に対する使用は難しい。GFRの推定には血清クレアチニンに基づく計算式が望ましいが3、現時点で年齢の低い小児のGFRを正確に推定するものとして一般に認められた方程式はない4。思春期のGFR測定により濾過過剰の早期発見の機会が得られるため、目標血糖値の達成に細心の注意を払うことができよう。腎症の発現リスクのある小児を特定する方法として、この戦略は微量アルブミン尿を繰り返し測定するよりも費用効果が高いだろう。このため、糖尿病児の治療を改善するためには、この状況でGFRを容易かつ正確に推定する方法を開発しなければならない。
Acknowledgments
The synopsis was written by Chloë Harman, Associate Editor, Nature Clinical Practice.
References
- Silverstein J et al. (2005) Care of children and adolescents with type 1 diabetes: a statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care 28: 186–212 | PubMed | ISI |
- Thomson SC et al. (2004) Kidney function in early diabetes: the tubular hypothesis of glomerular filtration. Am J Physiol Renal Physiol 286: F8–F15 | PubMed | ISI | ChemPort |
- Hogg RJ et al. (2003) National Kidney Foundation's Kidney Disease Outcomes Quality Initiative clinical practice guidelines for chronic kidney disease in children and adolescents: evaluation, classification, and stratification. Pediatrics 111: 1416–1421 | Article | PubMed | ISI |
- Pierrat A et al. (2003) Predicting GFR in children and adults: a comparison of the Cockcroft-Gault, Schwartz, and modification of diet in renal disease formulas. Kidney Int 64: 1425–1436 | Article | PubMed | ISI |
