ドップラー法による無症候性塞栓の検出は症候性頚動脈狭窄における卒中のリスクを予測するか?
原論文
Markus HS and MacKinnon A (2005) Asymptomatic embolization detected by Doppler ultrasound predicts stroke risk in symptomatic carotid artery stenosis. Stroke 36: 971-975
PRACTICE POINT(診療のポイント)
症候性頚動脈狭窄のある患者における栓子シグナルの経頭蓋ドップラーモニタリングは、熟練したスタッフにより行われれば、虚血イベントの短期リスクが高い患者群を特定することができる。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
頚動脈狭窄(CAS)患者では通常、塞栓症が脳卒中の原因である。これらの患者における塞栓事象のリスク評価法には改善が必要である。症候性CAS患者においては、経頭蓋ドップラー(TCD)超音波上の栓子シグナルにより、一過性虚血発作(TIA)と脳卒中の複合リスクが予測されると考えられるが、脳卒中のみのリスクは予測可能であろうか?
OBJECTIVES(目的)
1時間のTCD記録中の栓子シグナルの存在が、脳卒中の短期リスクを予測するか否かを判定すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
症候性(過去3ヵ月以内の同側脳卒中、TIA、一過性黒内障)の50%以上のCASがあり、心臓に明らかな塞栓の原因のない連続した患者を組み入れ、同側の中大脳動脈からの1時間の経側頭葉ドップラー超音波の記録を行った。標準的な合意基準に従い7dB以上の音声強度閾値を付加し、栓子シグナルを識別するために、ドップラーシグナルのデジタルオーディオテープの分析および外観のスペクトル分析を実施した。すべての候補者の90日間の前向き追跡調査からエンドポイントを記録した。分析は、熟練した研究者が盲検化した状態で行った。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
エンドポイントは、同側脳卒中と、同側脳卒中とTIAの複合とした。頚動脈の血管内膜切除術あるいは血管形成術、脳卒中以外の死亡は打ち切り事象とした。
RESULTS(結果)
患者母集団は、年齢、性別、高血圧、喫煙状況の点で均質であり、転帰がこれらの危険因子により影響を受けることはなかった。栓子シグナルは被験者200例中89例(44.5%)で確認され、頻度の中央値は1時間当たり4.0個(範囲:1個~57個)、大多数の患者では1時間当たり5.0個以下であった。最後に報告された症状からの平均時間は、栓子シグナルが検出された被験者では、検出されなかった被験者よりも短く(22.5日[SD 25.2]対38.2日[SD 23.5]、P=0.002)、栓子シグナルの検出率は最後に報告された症状からの期間と負の相関を示した(Spearmanの=-0.164、P=0.02)。追跡期間中、患者200例のうち31例が再発性の同側性虚血イベントを発現した(脳卒中7例、TIA 24例)。栓子シグナルの存在は、脳卒中単独および脳卒中とTIAの複合と関連していた(Kaplan-Meier解析によるlog rank統計値は、脳卒中単独で10.85、P=0.001;脳卒中とTIAの複合で18.52、P=0.00001)。危険因子をコントロールするCox回帰後も、これは有意であった(補正オッズ比4.67[95%CI 1.99~11.01]、P<0.0001)。追跡調査中の抗血小板療法は転帰に影響を及ぼすことはなかった。TCDの記録が陰性だった患者では、再発性の同側脳卒中のリスクは0%であり、同側脳卒中とTIAの複合リスクは7.4%であるのに対し、全患者のリスクはそれぞれ3.5%と15.5%であった。脳卒中のみの患者では、TIA患者あるいはイベントのない患者と比べて、栓子シグナルが高率である有意でない傾向がみられた。
CONCLUSION(結論)
CAS患者では、TCDによる無症候性栓子シグナルの検出は脳卒中のリスクを予測し、またリスクの層別化の助けとなると考えられる。また、抗血栓療法の評価のための有用なサロゲートマーカーとなる可能性もある。
KEYWORDS(キーワード)
頚動脈狭窄、脳塞栓症、脳卒中、経頭蓋ドップラー超音波
COMMENTARY(解説)
Charles H Tegeler and Jongyeol Kim
頚動脈狭窄(CAS)は脳卒中の原因となることが多い。虚血の機序として血行力学的障害、遠位部の塞栓、あるいは両方の合併などがあげられているが、塞栓症はもっとも多く見られる機序と推定される1。CASに対する手術は、症候性患者、無症候性患者の両方で脳卒中のリスクを低減し、その結果CASの識別は脳卒中予防の取り組みにおいて重要な位置を占める。現在CASの手術は、狭窄の重症度と症状の有無に基づいて決定される。しかし、CASから脳卒中を発症するリスクは、同じ重症度と症状の特徴を呈する患者の中でも個人によってさまざまである。リスク利益比を改善し、限られた医療資源を有効利用するために、ハイリスクのCSA患者群を特定するためのより精度の高い方法が必要とされる。
熟練した技術を用い、実施と判読のための厳格なプロトコルがあれば、TCD超音波は脳塞栓症を正確に同定することができる2。TCD上の栓子シグナルと臨床的特徴の関係が示唆されてきたが、栓子シグナルの予測的価値に関する研究は、少ない標本サイズとエンドポイントとしてのTIAの採用が難点である。
この研究は、CASによる脳卒中のリスクが高い患者を識別するための重要な一歩である。著者らは栓子検出のためのTCDの利用に豊富な経験をもち、栓子シグナルが短期(90日)に発生する臨床転帰と相関するか否かを評価するために、50%以上のCASが原因と思われる症状を最近発現した患者を対象に研究を行った。この研究の強みは、症例数の多さ、単一施設における連続的な患者の登録、転帰としてTIAのない脳卒中を含めたこと、盲検下でのTCD記録の判読などである。加えて、TCDモニタリングは1時間行われているが、これは臨床現場において現実性のある目標であり、判読はオフラインで行われている。
著者らは、患者200例のうち89例(45.5%)に同側の中大脳動脈に栓子シグナルを検出した。3カ月の追跡期間中、31例の再発性虚血イベントがあった(脳卒中7例、TIA24例)。年齢、性別、喫煙、高血圧、最後の症状からの時間、狭窄の程度で調整した後でさえ、栓子シグナルの存在は、頻度と関係なく再発性のイベントと相関していた(脳卒中単独でP=0.001、脳卒中またはTIAでP=0.00001)。抗血小板療法の影響など、潜在的な交絡因子が転帰を変化させることはなかった。
この研究は、栓子シグナルのTCDモニタリングにより、虚血事象を起こす短期リスクの高い症候性CAS患者を特定できることを証明している。これにより、早期の手術、介入、薬物療法が可能となり、手術の候補とならない患者に対する抗血栓療法の有効性を評価するうえで臨床的に価値のあるサローゲートマーカーを提供する。この研究は非常に説得力があり将来性のあるものだが、熟練した研究者により、オフラインの人手による判読法を用いて行われた。市販されている自動栓子シグナル検出システムは、この手法の利用可能性を改善すると思われるが、本研究で採用された方法と同等の精度と臨床的な予測能を示すには至っていない3。無症候性CASに関しては、栓子シグナルの予測的価値はいまだ確認されていない4。症候性CASの患者においては、栓子シグナルのTCDモニタリングの臨床的適用は、現在の段階では熟練したスタッフのいる施設に限定すべきである。
References
- Caplan LR and Hennerici M (1998) Impaired clearance of emboli (washout) is an important link between hypoperfusion, embolism, and ischemic stroke. Arch Neurol 55: 1475–1482 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Markus H (2000) Monitoring embolism in real time. Circulation 102: 826–828 | PubMed | ISI | ChemPort |
- Hennerici MG and Meairs S (2002) Refined analysis of transcranial Doppler HITS. Lancet Neurol 1: 406
- Abbott AL et al. (2005) Embolic signals and prediction of ipsilateral stroke or transient ischemic attack in asymptomatic carotid stenosis: A multicenter prospective cohort study. Stroke 36: 1128–1133 | Article | PubMed | ISI |
