Practice Point

脳生検は痴呆の診断に役立つか?

原論文

Warren JD et al. (2005) Brain biopsy in dementia. Brain 128: 2016–2025

PRACTICE POINT(診療のポイント)

痴呆の脳生検は中程度に安全な手技であり、病理学的な原因を特定できることが多いが、有効な治療に結びつくことはまれである。

Top

SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

痴呆(認知症)の基礎原因の診断は困難なことが多く、正確な診断は、脳組織の直接的な検査により確定する場合がある。しかし、診断率が低い、重篤な合併症を引き起こす可能性があるとの見解があり、脳生検の役割については依然として議論の余地がある。

OBJECTIVES(目的)

痴呆の基礎原因の診断における脳生検の役割、手技に伴うリスク、および生検で得られる病理学的所見に対する臨床所見と検査所見の適中率を評価すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

本研究では、1989年から2003年の間に、専門施設で痴呆検査を目的とした大脳生検を受けた一連の成人患者の症例記録をレトロスペクティブに解析した。痴呆は、本疾患の特徴的な臨床症状である、認知機能、行動、または人格の進行性の障害と定義した。急性脳炎、頭蓋内腫瘍、てんかんが認められた患者は本研究から除外した。各症例について、標準的な手順に従って、臨床的所見の詳細、臨床検査結果、MRI、脳波、脳脊髄液(CSF)、脳生検所見を評価した。生検の理由、生検前後の治療、生検に関連する合併症についても評価した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

診断と治療決定に対する脳生検の寄与度、手技に伴うリスク、および臨床所見、画像所見、臨床検査所見の適中率を評価した。

RESULTS(結果)

指合計90症例を解析の対象とした。患者のうち50例(55%)は男性で、生検時の平均年齢は50.5歳(範囲16~75歳)であり、症状の平均持続期間は28カ月(範囲1.5~144カ月)であった。大部分の患者に神経学的徴候(91%)、あるいは行動異常(73%)が認められた。すべての生検は、可逆的な疾患(感染または炎症)を除外する目的で実施された。生検結果により症例の57%の診断が確定した。頻度の高かった診断は、アルツハイマー病(16例、18%)、クロイツフェルト・ヤコブ病(古典的症例10例、変異型症例1例;12%)、炎症性疾患(9例、Whipple病1例を含む、9%)であった。診断が確定しなかった症例でもっとも頻度の高かった所見は、非特異的なグリオーシスであった(33例、37%)。10例(11%)では、生検結果が直接的に治療方法の決定に結びついた。多くの臨床所見・臨床検査所見が基礎的病態の予測因子であることが判明した。そのうち、CSF中の細胞数の増加のみが、治療可能な炎症性疾患の予測因子であった。術後の合併症は10例(11%)で認められ、全般発作(3例)、脳内出血(2例)、創傷感染(2例)の頻度が高く、頭蓋内膿瘍、硬膜下血腫、周術期の肺炎が各1例ずつ報告された。合併症は治療に反応し、持続性の神経障害または生検に関連する死亡は認められなかった。

CONCLUSION(結論)

標準的な非侵襲性の手法により痴呆の基礎原因が特定できない場合、脳生検により有用な診断情報を得ることができる。特定の臨床所見および臨床検査所見により、生検による痴呆の基礎原因を予測できる場合がある。

KEYWORDS(キーワード)

アルツハイマー病、脳生検、痴呆(認知症)、非特異的なグリオーシス

Top

COMMENTARY(解説)

Martin Zeidler and Adam Zeman

神経科医なら誰でも、時に、痴呆を呈する若年患者の脳生検を実施すべきか否かという慎重を要する問題を扱うことがあるだろう。このような検査の主な(そしておそらくは唯一の)目的は、脳血管炎などの治療可能な(理想的には可逆的な)疾患を特定することである1。しかし、このような疾患を特定できる確率や、生検に伴うリスクはどの程度であろうか? また、生検を実施すべき患者と実施すべきでない患者を決定するための指標となる臨床所見は存在するのだろうか?

Warren らは、これらの疑問を解決するため、痴呆検査を目的とした一連の90例の脳生検のレトロスペクティブ解析を実施した。57%の生検において診断が確定し(以前に実施された研究と同等の割合2)、内訳は、アルツハイマー病(18%)、クロイツフェルト・ヤコブ病(12%)、炎症性疾患(9%)、その他の疾患(ピック病[4%]、びまん性レヴィー小体病、皮質基底核変性症、その他のタウパチー(tauopathy)、アテローム性動脈硬化症、コンゴ好染性血管障害、CADASIL、Spatz–Lindenberg病、Whipple病、PML、腫瘍随伴性脳症)であった。診断が確定しなかった症例群(33例/39例)と症例全体(37%)において、もっとも多かった生検所見は、皮質と白質にさまざまな度合で認められた非特異的なグリオーシスであった。合併症(全患者の11%、以前実施された研究と同等)には、発作、頭蓋内感染、創傷感染、頭蓋内出血が含まれた。手技に起因する死亡または持続性の神経学的後遺症は認められず、安心できる結果が得られた。可逆性の疾患である可能性が9例(10%)で確認され、内訳は、1例がWhipple病、8例が炎症所見(4例は「慢性髄膜脳炎」と分類され、その他は血管炎、ベーチェット病、神経サルコイドーシス、肉芽種性脳症(granulomatous encephalopathy)と分類された)であった。治療による改善が報告されたのは、これらの9例中2例のみであった(その他の7例の追跡情報は得られていなかった)。生検による炎症性疾患に対する唯一の予測因子は、CSF中の白血球数増加(>5個/μL)であった。行動変化、CSF中の蛋白濃度上昇、および血清中とCSF中のオリゴクローナルバンドの一致は非特異的なグリオーシスと関連していた。年齢、発作、全身性障害の臨床的特徴、血沈亢進、MRI上の白質の信号異常、オリゴクローナルバンドの不一致は、組織の病態の予測因子ではなかった。

痴呆の脳生検に関連する全死亡率は1%と推定されている3。Warrenらは、自然に、または経験的な免疫抑制療法により改善した、非特異的所見を呈した症例についていくつか報告している。脳生検所見により著明な改善を示す疾患を特定できる確率が非常に低く、死亡するリスクに近づくこと、また改善の余地のある患者が生検後に死亡する可能性があることなどから、本研究が悲観的に解釈されることも考えられる。神経科医はこの「低いヒット率」に不安を覚えるかもしれないが、毒性のある薬剤を用いてやみくもに患者の治療を行ったり、放置したりする選択肢は、いっそう不適切であろう。

最後に、患者とその親族に、脳生検についてどのように伝えるべきであろうか? 死亡リスクは1%であること。合併症リスクは10%だが、これらは一過性である可能性が高いこと。診断が確定する確率は約60%だが、治療可能な患者は10%のみであり、このうち治療に著明に反応する患者はわずかであること、である。

References

  1. Chu CT et al. (1998) Diagnosis of intracranial vasculitis: a multi-disciplinary approach. J Neuropathol Exp Neurol 57: 30–38  | PubMed | ISI | ChemPort |
  2. Hulette CM et al. (1992) Evaluation of cerebral biopsies for the diagnosis of dementia. Arch Neurol 49: 28–31  | PubMed | ISI | ChemPort |
  3. Chen TC et al. (1996) Diagnostic biopsy for neurological disease. In Neurological surgery, edn 4, 315–347 (Ed. Youmans JR) Philadelphia: WB Saunders

Main navigation

NPG リソース

Main navigation


Extra navigation

.
ADVERTISEMENT