Practice Point

アスピリン治療の中止は脳卒中を引き起こすか?

原論文

Maulaz AB et al. (2005) Effect of discontinuing aspirin therapy on the risk of brain ischemic stroke. Arch Neurol 62: 1217–1220

PRACTICE POINT(診療のポイント)

アスピリン治療の中止を検討する場合には、とくに心塞栓性起源の脳卒中リスクが高い患者においては、関連するリスクと利益とを慎重に評価すべきである。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

アスピリンには抗血栓作用があるため、虚血性血管疾患の予防に広く用いられている。しかし、この治療は、例えば手術前や薬物不耐性の結果として中断されることが多い。アスピリンの治療中止は、理論的には、反動によるプロトロンビン作用を引き起こす可能性があり、予備的な臨床的証拠により、アスピリン治療の中止が実際に虚血性脳卒中を誘発する可能性があることが示唆されている。

OBJECTIVES(目的)

アスピリン治療の中止が虚血性脳血管疾患のリスク因子であるかどうかを検討すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

この単一施設後向き横断症例対照研究では、2002年1月から2004年4月の間に、虚血性脳卒中または一過性虚血性発作(TIA)後に入院し、かつ指標事象の発症前に長期間アスピリンを含む抗血小板療法を受けていた患者309例を対象とした。脳血管または心血管リスク因子に対する過去の治療においてコンプライアンスが悪かった患者は除外した。対照群は、脳卒中の既往歴があるが過去6カ月以内に脳卒中またはTIAを発症しておらず、かつ脳血管事象の二次予防として長期間アスピリンを含む抗血小板療法を受けていた、年齢と性別をマッチさせた外来患者309例であった。研究者らは、虚血性事象の発症前(患者)または電話調査による参加前(対照者)の4週間以内における、脳血管リスク因子の存在とアスピリン治療の中止に関する情報を収集した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

主要評価項目は、虚血性脳事象発症前または電話によるインタビュー前4週間以内のアスピリン治療中止率とした。

RESULTS(結果)

脳血管リスク因子の頻度は、患者では対照者と比べて高頻度で認められた冠動脈性心疾患(36%対18%、P<0.001)を除いては、両群間で同等であった。脳血管事象の発症前またはインタビュー前の4週間において、患者群の13例(4.2%)がアスピリン治療を中止していたのに対し、対照群では4例(1.3%)であった(P=0.03)。アスピリン中止後4週間以内の虚血性脳事象のオッズ比は3.34(95%CI 1.07~10.39)であった。冠動脈心疾患で調整後も、アスピリン治療の中止は、中止後4週間以内に発症した脳血管事象の有意なリスク因子であった(オッズ比3.4;95%CI 1.08~10.63)。アスピリン治療中止の主な原因は、手術、この治療による明確な利益が認められないという治療担当医師の決定、出血性合併症、不遵守、認知症であった。患者群における治療中止と脳梗塞発症との間の日数の平均値(±SD)は9.5(±7)日であった。心血管代謝性脳卒中(cardiometabolic stroke)は、アスピリン治療中止に関連する最も発症率の高い脳卒中のサブタイプであった。

CONCLUSION(結論)

これらの所見により、アスピリン治療の中止は、治療中止後最初の4週間における脳卒中リスクを増加させる可能性があることが示唆される。

KEYWORDS(キーワード)

アスピリン治療中止虚血リスク因子脳卒中

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COMMENTARY(解説)

Rafael H Llinas

アスピリンは、脳卒中の一次予防および二次予防の主流として用いられている。アスピリン中止後の虚血性脳卒中やTIAなどの脳血管事象の発症率に関しては、症例対照法による明確な検討がなされていない。アスピリンによる出血時間の延長や手術時の失血量の増加が原因で合併症が増加するため、通常ではアスピリンは選択的手術前には中止される1,2。事例証拠により、患者がワルファリンまたはアスピリン使用を中止した場合に脳卒中が発症する可能性があることが示唆されている。しかし、この明白な関連が、偶然の一致によるものか、外科手術に起因する一過性の凝固能亢進によるものか、または主に抗血栓薬の中止によるものであるかは明らかにされていない。

Maulazらは、この問題の一部を解明した。彼らの研究の目的は、アスピリンを中止した患者のほうが、アスピリンのコンプライアンスが良好な患者に比べてTIAや脳卒中が多く発症するかどうかを検討することであった。著者らは、後向きのデザインを用いて、最近TIAまたは脳卒中を発症した入院患者群におけるアスピリンの中止率を、脳卒中またはTIAの既往歴があるが、過去6カ月以内に脳血管事象を発症していない外来患者群と比較した。両群の脳血管リスクは同等であったが、完全には一致しておらず、入院患者では心血管疾患の発症率が高かった。アスピリン中止の原因が、手術、治療担当医師の決定、出血性合併症、不遵守、または認知症であったことも、入院患者のほうが、比較的状態の安定した外来患者集団に比べて、重症でリスクが高かった可能性を示唆している。著者らは、アスピリンを中止した患者における脳卒中のオッズ比が統計学的に有意であることを示し(P<0.005)、大部分は心塞栓性起源によるものであった。このリスク推定値の信頼区間は広かったが、おそらくは、アスピリンを中止した脳卒中患者数(n=13)が少なかったことが原因であると考えられる。

アスピリン中止後の脳卒中とTIA発症率の増加に関して想定される原因は、反動によるプロトロンビン作用である。Maulazらにより本論文中で引用された実験的研究では、この作用はアスピリン使用中止後8~21日後に起こる可能性があり、多くの臨床医が、内視鏡検査または従来の血管造影法などの手技において、アスピリンに関連する合併症の低リスクがあるのに比べ、5~7日間のアスピリン中止はリスクがないと考えていることが示されている。本研究においてもっとも懸念されたのは、アスピリン中止とTIAまたは脳卒中の発症との間の期間が短いことであった。6例の患者は5日以内に脳卒中を発症し、脳卒中の70%がアスピリン中止後10日以内に発症した。本研究は、リスク分析のための集団ベースの研究であるため、観察された脳卒中の病因については推測できるのみである。しかし、これらの所見は、アスピリン治療を中止するさいには、リスクについて慎重に比較考慮すべきであり、患者側のアスピリン治療に対するコンプライアンスが非常に重要であることを示す適切な証拠である。その他の文献により、この見解が支持されており、アスピリン治療の継続または冠動脈バイパス術後のアスピリンの迅速な再導入が実際には有益である可能性が示唆されている3,4

結論として、このレトロスペクティブ研究の知見から、アスピリン治療の中止は、これまでに予想されていた以上にリスクが高い可能性があり、とくに心塞栓性起源の脳卒中リスクが高い患者においてアスピリン治療を中止する場合には注意が必要であるという、予備的な見通しが示されている。

References

  1. Amrein PC et al. (1981) Aspirin-induced prolongation of the bleeding time and perioperative blood loss. JAMA 245: 1825–1828  | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
  2. Cahill RA et al. (2005) Duration of increased bleeding tendency after cessation of aspirin therapy. J Am Coll Surg 200: 564–573  | Article | PubMed | ISI |
  3. Katz J et al. (2003) Risks and benefits of anticoagulant and antiplatelet medication use before cataract surgery. Ophthalmology 110: 1784–1788  | Article | PubMed | ISI |
  4. Topol EJ (2002) Aspirin with bypass surgery—from taboo to new standard of care. N Engl J Med 347: 1359–1360  | Article | PubMed | ISI |

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