認知症高齢者を対象とした現在利用可能な疼痛評価法はどの程度有用か?
原論文
Zwakhalen SMG et al. (2006) Pain in elderly people with severe dementia: a systematic review of behavioural pain assessment tools. BMC Geriatr 6: 3
PRACTICE POINT(診療のポイント)
言葉を発しない高齢者をケアしている医療従事者は、患者が苦痛を訴えたときに使えるように、疼痛評価のための適切な心理測定ツールを用いる訓練を受けるよう積極的に検討すべきである
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
老人ホーム入居者は、その半数以上が認知症を有し、また多くは痛みを自己報告することができないため、このような高齢者における疼痛評価は困難となることがある。
OBJECTIVES(目的)
認知症高齢者の疼痛を評価するために現在利用できる手法を特定し、それらの手法の心理測定的な質(psychometric qualities)を評価すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
Zwakhalenらは、高齢者の疼痛の分野において、1988~2005年に英語、オランダ語、独語、仏語で発表された関連文献を対象に、系統的レビューを実施した。MEDLINE、PsycINFO、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(CINAHL)の検索と、主要雑誌論文での引用および最近の国際疼痛学会世界大会抄録集の調査により、認知症高齢患者を対象とした疼痛評価法12種類について報告した論文29本が特定された。これらの評価法は、患者の自己報告または行動指標をもとに疼痛を評価するものであった。特定されたそれぞれの手法の心理測定的な質は、0~20の尺度で評価した。尺度には、妥当性、信頼性、実施可能性、その手法の評価を行った患者数などの項目が含まれた。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要評価項目は、特定された各疼痛評価法の心理測定的な質とした。
RESULTS(結果)
行動に基づく疼痛評価法12種類の質は概して中程度であったが、ほとんどの手法はまだ開発の途中であった。もっともスコアが良かった4つの手法―DOLOPLUS 2、l’Échelle Comportementale pour Personnes Agées(ECPA)、Pain Assessment Checklist for Seniors with Limited Ability to Communicate(PACSLAC)、Pain Assessment in Advanced Dementia Scale(PAINAD)―は、質の尺度で11ポイントに達した。それ以外の疼痛評価法の評価は次の通り。Pain Assessment for the Dementing Elderly(PADE)、総スコア10;Abbey Pain Scale総スコア10;Rating Pain in Dementia(RaPID)、総スコア9;Checklist of Nonverbal Pain Indicators(CNPI)、総スコア7;Non-Communicative Patient’s Pain Assessment Instrument(NOPPAIN)、総スコア5;Observational Pain Behavior Tool、総スコア4;Simplified Behavioural Scale(ECS)、総スコア4;Pain Assessment Scale for Use with Cognitively Impaired Adults、総スコア4。もっともスコアが高かった4つの尺度のうち、行動の微妙な変化を検出できたのはPACSLACのみであった。看護などの臨床現場で日常的に使用するための実用性について、広範に評価された尺度はなかった。この意味でもっとも包括的に検証されていた尺度はDOLOPLUS 2であった。
CONCLUSION(結論)
現時点で利用可能な尺度のうちもっとも適切なものはPACSLACとDOLOPLUS 2である。これらの総合的な心理測定的な質は中程度であり、認知症高齢患者の疼痛評価については、現在利用可能な手法をさらに評価する必要があることが示唆される。
COMMENTARY(解説)
Robert D Helme
最近では、加齢が重要な人口統計学的傾向であることがほとんどの社会で認識されており、高齢者、とくに75歳以上の高齢者の医療的、身体的、心理社会的ケアに対する注目が高まりつつある1。心配の種の1つは、居住型施設での標準的ケアである。このような施設では、入居者の50%以上が認知症を有することがわかっている。これらの患者における疼痛評価法を改善する必要性は、この10年間で徐々に明確になってきた2。今回の総説と、Herrらによる最近のもう1つの総説3は、この分野においてどれだけの進歩があったかをタイムリーに振り返ったものである。
Zwakhalenらは、認知症高齢患者の疼痛評価のために今日までに開発されてきた、最もよく知られた手法を念入りに探し出した。著者らは、PACSLAC(60項目)とDOLOPLUS 2(10項目)が最適に作成された手法であるとの結論を下しているが、これらの手法の弱点も明らかにしている。同様にHerrらは、言葉を発しない認知症高齢者の疼痛を評価するための手法で、罹患者群において自信を持って使えるほど十分に妥当性が確認されたものは現時点ではないと結論付けた。ただしHerrらは、DOLOPLUS 2には可能性があるともしている3。
DOLOPLUS 2などの簡易手法は、たとえそのような手法の臨床的有用性、たとえばその手法を正確に使えるようにするための訓練に必要な時間などに関するエビデンスがほとんど得られていないとしても、若手の医療職員や看護職員にとって有用な「備忘録」となる可能性がある。それ以外の職員、とくに年長の臨床医には、苦痛のさまざまな原因を識別できるようなより高度な手法が必要である。疼痛は苦痛の原因の1つにすぎないためである。現在利用可能な手法の疼痛に対する特異度は、とくに有望というわけではない。
この事実から、そのような手法のもう1つの重要な用途―治療効果の測定―について考えさせられる。この目的で疼痛評価尺度の有用性を評価するには、予測能の妥当性を証明することが必要であるが、これらの手法の中でそのような証明が十分に行われているものはない。したがって、Zwakhalenらが調査した手法のうちいずれかを、疼痛の程度が異なる患者群における治療効果の比較に用いることができるかどうかは不明である。患者が示すさまざまな反応―同じような痛みがある状況に反応して、内向的になる人もいれば、攻撃的になる人もいる―によって、問題は複雑になる。
どうすれば前に進めるであろうか? 著者らは多少保守的な態度を示しており、既存の手法の妥当性検証と信頼性を改善することが最善の方法であると示唆している。私の個人的な見解としては、誘発性疼痛の指標を含めれば(侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛4の評価にそれぞれ運動誘発性の疼痛と痛覚過敏を盛り込むなど)、また適切な場合には熱応答性などの神経機能の指標を含めれば、新たな手法がより有用となる可能性がある。評価と手法の妥当性を観察するためのシステムに鎮痛治療の効果を組み入れることも理にかなっていると考えられる。妥当性検証研究では、認知症のない失語症患者や知的障害者などのまた別の対照群を検討することも可能であろう。Zwakhalenらが示唆したように、臨床経過の初期には短期記憶障害が比較的少ない前頭側頭型認知症患者などの特定のグループをさらに研究することが、とくに有用となるであろう。確実にわかっているのは、今後も探索が続くということである。最高齢の市民に彼らが受ける権利のある質の高いケアを行うよう、社会が要求しているためである。Zwakhalenらの総説は、この過程を推進するための足掛かりである。
References
- Pathy MSJ et al. (Eds; 2006) Principle and Practice of Geriatric Medicine, edn 4. Chichester: John Wiley and Sons Ltd
- Cohen-Mansfield J (2004) The adequacy of the minimum data set assessment of pain in cognitively impaired nursing home residents. J Pain Symptom Manage 27: 343–351 | Article | PubMed |
- Herr K et al. (2006) Tools for assessment of pain in non verbal older adults with dementia: a state-of-the-science review. J Pain Symptom Manage 31: 170–192 | Article | PubMed |
- Jensen TS and Baron R (2003) Translation of symptoms and signs into mechanisms in neuropathic pain. Pain 102: 1–8 | Article | PubMed |
