Practice Point

神経科医は多発性硬化症患者のうつ病に十分な治療を提供しているか?

原論文

Mohr DC et al. (2006) Treatment of depression for patients with multiple sclerosis in neurology clinics. Mult Scler 12: 204–208

PRACTICE POINT(診療のポイント)

うつ病は多発性硬化症患者の50%で発生しているにもかかわらず、見逃される、あるいは十分な治療が行われないことが多い。したがって神経科医は、そのような患者全員に対してルーチンにうつ病のスクリーニングを行い、もっとも重度の複雑な症例以外すべての治療法を習得しておくべきである

Top

SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

大うつ病性障害(MDD)は、多発性硬化症(MS)患者によくみられる合併症であるが、うつ病のあるMS患者が、治療を担当している神経科医から十分な治療を受けているかどうかは不明である。精神衛生専門家ではない医師によるうつ病の薬理学的管理に関する現行のガイドラインでは、患者が寛解に達するまで頻繁に経過観察を行い、投与量を調節することが推奨されている。

OBJECTIVES(目的)

MS患者のうつ病に対し、神経科医は十分な薬物療法を処方しているかどうかを評価すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

本研究は、Northern California Kaiser Permanente Medical Care Groupのデータベースから特定されたMS患者260例を対象とした。対象患者は平均50.5歳(範囲20~79歳)で、72.7%が女性であり、MSと診断されてからの期間は平均19.3年(範囲2~53年)であった。DSM-IV(精神疾患の分類と診断の手引 第4版)に従い、Structured Clinical Interview for DSM-IV Disorders(SCID)を用いてMDDの診断を行った。抗うつ薬(三環系抗うつ薬を除く)の処方に関する情報は、Kaiser Permanenteの薬剤部のデータベースから入手した。以下のカテゴリーを用いて投与量の適切性を分析 した。閾値下―最小臨床用量未満、閾値―最小臨床用量から最小臨床用量の2倍まで、閾値上―最小臨床用量の2倍以上。抗うつ薬治療とMDDの状態との関連性を、2検定により評価した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

抗うつ薬治療の頻度と用量、MDDの状態と抗うつ薬治療の関連性。

RESULTS(結果)

患者の1/4(67例、25.8%)がSCIDによるMDDの基準を満たした。これらの患者は、MDDの基準を満たさなかった患者より有意に若かった(P=0.001)。計70例(26.9%)が抗うつ薬を投与されており、MDD患者はMDDの基準を満たさなかった患者と比べて抗うつ薬を使用している確率が高かった(P=0.037)。抗うつ薬を使用している患者の大部分(78.6%)は、治療を担当している神経科医から処方箋をもらっており、これらの患者では次のようなパターンが認められた。MDD患者のうち、半数以上(42例、65.6%)は抗うつ薬を投与されておらず、3例(4.7%)は閾値下の用量で、17例(26.6%)は閾値の用量で、2例(3.1%)のみが閾値を超える用量で抗うつ薬を投与されていた。MDDのない患者でも、抗うつ薬の処方について同様のパターンが認められた(神経科医から処方箋をもらった患者において、用量とMDDの状態との関連に関するP=0.18)。

CONCLUSION(結論)

かなりの割合のMS患者がMDDを患っていたが、このような患者を治療している神経科医は、うつ病に対して十分な治療を提供していなかった。

KEYWORDS(キーワード)

抗うつ薬うつ病多発性硬化症

Top

COMMENTARY(解説)

Maria A Ron

MS患者の半数は、疾患の経過中いずれかの時点でうつ病になり、うつ病はいったん発症すると何年間も続く可能性がある。MS患者におけるうつ病の12カ月有病率(25.7%)は、一般集団の3倍である1。同様に、自殺率も一般集団と比べて2倍以上であり、若い男性や、社会的に孤立している患者または飲酒問題を抱える患者では自殺リスクがさらに高くなる。社会の支援がないと感じていることや、コーピング様式が正常に機能していないことなどの要因は、身体的な障害の重症度より、うつ病の誘発や持続に強く関連していると考えられる。左前頭側頭葉の異常(病変量(lesion load)と萎縮)はうつ病に関連しているが、その関連はそれほど強くない2。統合解析では、インターフェロン1aを用いた治療によって、治療開始後6カ月間に有害作用として記録されるうつ病が増加したが、全体的な抑うつ症状の重症度や自殺リスクは増加しなかった3。抑うつ症状は治療中止の理由であり、うつ病の既往からもっともよく予測された。したがって、治療期間中、とくに治療初期には、気分を観察すべきである。

MS患者にみられるうつ病の特徴は、神経疾患以外の病態を有する患者の特徴と同様である。気分の落ち込み、否定的思考、快感消失、自殺念慮は発現頻度が高く、診断に重要となる。一方、倦怠感や集中力低下などの症状はMSの特徴である可能性があり、その重症度はうつ病によって調節されているとしても、うつ病の診断における有用性は低い。ある研究では、日常的な活動が制限されるほど重度の倦怠感を訴えるMS患者の3/4が、抑うつ症状も報告しており、うつ病患者は気分が正常な患者より倦怠感を訴える確率がはるかに高かった4。うつ病の治療によって倦怠感が軽減されるというエビデンスもある1。うつ病は、情報処理を遅らせ、学習や作動記憶を妨げることによって、認知機能障害という重荷をも追加する。MS患者のうつ病は、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]など)や、コーピング方法の改善を目的とした認知行動療法(CBT)に反応する5

MSにおけるうつ病は、QOLに影響を及ぼすにもかかわらず、見逃される、または十分な治療が行われないことが多い6。この点が、Mohrらによって改めて明らかにされている。Mohrらは、神経科医の治療を受けているMDD患者のうちわずか1/3が抗うつ薬を投与されていることを見出した。患者は診察に訪れなくなることが多く、治療ガイドラインはしばしば無視されていた。Mohrらは、精神科の不足と、患者が精神科を利用したがらないことによって、うつ病の発見と治療という仕事が神経科医に委ねられるようになると指摘している。最近のガイドライン6では、日常的に患者の治療を行っている医師が標準質問票を用いて患者全員をスクリーニングすること、さらに、うつ病の基準を満たす患者には完全な評価と治療計画を提供することが推奨されている。治療法としては、抗うつ薬(通常SSRI)、CBTへの紹介、またはその両方が挙げられ、うつ病が良好にコントロールされるまで経過観察を行うべきである。しかし、うつ病のあるMS患者すべての管理を神経科医に求めるべきではなく、自殺念慮が著明な場合、最適用量で抗うつ薬を試用しても症状が軽減されない場合、双極性障害または精神病が疑われる場合には、精神科への紹介が適切である。これらのガイドラインの実行は神経科医にとって難題であるが、取り組む価値は十分にある。

References

  1. Siegert RJ and Abernethy DA (2005) Depression in multiple sclerosis: a review. J Neurol Neurosurg Psychiatry 76: 469–475 | Article | PubMed | ChemPort |
  2. Feinstein A (2006) Mood disorders in multiple sclerosis and the effects on cognition. J Neurol Sci 245: 63–66 | Article | PubMed |
  3. Patten SB et al. (2005) The relationship between depression and interferon beta-1a therapy in patients with multiple sclerosis. Mult Scler 11: 175–181 | Article | PubMed | ChemPort |
  4. Chwastiak LA et al. (2005) Fatigue and psychiatric illness in a large community sample of persons with multple sclerosis. J Psychosom Res 59: 291–298 | Article | PubMed |
  5. Mohr DC et al. (2001) Comparative outcomes for individual cognitive-behavior therapy, supportive-expressive group psychotherapy, and sertraline for the treatment of depression in multiple sclerosis. J Consult Clin Psychol 69: 942–949 | PubMed | ChemPort |
  6. Goldman Consensus Group (2005) The Goldman Consensus statement on depression in multiple sclerosis. Mult Scler 11: 328–337 | Article |

Main navigation

NPG リソース

Main navigation


Extra navigation

.
ADVERTISEMENT