D-ダイマー値により急性虚血性脳卒中の早期の神経学的悪化リスクのある患者を特定できるか?
原論文
Barber M et al. (2006) D-dimer predicts early clinical progression in ischemic stroke: confirmation using routine clinical assays. Stroke 37: 1113–1115
PRACTICE POINT(診療のポイント)
D-ダイマー測定法は、早期の神経学的悪化防止を目的とした抗血栓薬および抗血小板薬の臨床試験の対象となる、急性脳卒中患者の選択に役立つ可能性がある。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
フィブリンの分解産物であるD-ダイマーの血漿濃度測定は、血栓塞栓性疾患の診断において重要な役割を果たしている。研究室用のD-ダイマー測定法を使用した最近の研究により、D-ダイマー検査は、虚血性脳卒中における早期の神経学的悪化(END)の予測においても有用である可能性が示された。
OBJECTIVES(目的)
ルーチンの臨床測定法を用いて、虚血性脳卒中との関連におけるD-ダイマー測定の予測的価値を確認すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
本研究には、急性虚血性脳卒中患者219例を登録した。参加者の4分の1(n=54)は、入院後72時間の間に認められた患者の意識レベルの低下、腕もしくは脚の脱力の増加、または言語能力の低下を含むENDの基準を満たしていた。症状の発症後24時間以内に採取した血液サンプルを、MDA®D-ダイマーキット(ラテックス凝集法に基づく自動免疫測定法)とVIDAS®D-ダイマーキット(自動酵素免疫測定法[ELISA])を用いて分析した。この2つのルーチンの臨床測定法は、bioMérieux,(Durham、NC、USA)から提供を受けた。これらの結果を、以前にBiopool AB(Umeå、Sweden)のELISAを用いて研究室で得られた結果と比較した。これらの3種類の測定法により得られた測定値の相関を、Spearman順位検定を用いて解析した。二項ロジスティック回帰分析を用いて、進行性脳卒中の予測における、3種類の測定法の性能を評価した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
3種類の測定法により得られたD-ダイマー値間の相関と、虚血性脳卒中におけるENDの予測に対する各測定法の感度、特異度、陽性適中率。
RESULTS(結果)
進行性脳卒中患者のD-ダイマー値の中央値は、非進行性脳卒中患者より高かった(MDA®測定法:597ng/mL対348ng/mL;VIDAS®測定法:863ng/mL対407ng/mL;両測定法においてP=0.00002)。異なる測定法により得られたD-ダイマー値の間には、強い相関が認められた。スピアマンの順位相関係数は、Biopool ABとMDA®測定法との間でr=0.94、Biopool ABとVIDAS®測定法との間でr=0.92、MDA®とVIDAS®測定法との間でr=0.91であった(すべてにおいてP<0.001)。D-ダイマー値は、脳卒中の進行を独立して予測した(3種類の測定法すべてについてオッズ比1.87~2.45、すべてにおいてP<0.001)。進行性虚血性脳卒中の予測において、病院で用いられる臨床測定法は、Biopool測定法よりわずかにすぐれていた。D-ダイマー値の分布における90パーセンタイル値を基準に設定したカットポイント(VIDAS®測定法で1,749mg/mL、MDA®測定法で1,294ng/mL、Biopool測定法で1,362ng/mL)において、VIDAS®測定法は感度21%、特異度94%、陽性適中率52%、MDA®測定法は感度21%、特異度94%、陽性適中率52%、Biopool測定法は感度17%、特異度92%、陽性適中率41%であった。
CONCLUSION(結論)
ルーチンでのD-ダイマー測定法は、ENDリスクの高い虚血性脳卒中患者の特定に役立つ。
COMMENTARY(解説)
Edward C Jauch and Daniel T Laskowitz
脳卒中の進行は、出血性および虚血性脳卒中の両方において、一般的で臨床的に重要な現象である。早期の神経学的悪化(END)は、症状の発症後最初の48~72時間の悪化を示している。この悪化の病因は多様であり、心房細動、高齢、糖尿病、脳卒中の重症度、脳卒中の病因、高血糖、高体温、早期の低吸収域を示すCT所見、中大脳動脈の高吸収域を示すCT所見、MRIの灌流画像と拡散強調画像のミスマッチと関連している1,2。ENDリスクのある個々の患者の特定は、この集団の臨床転帰を最適なものにするための、抗血栓薬の使用など、具体的な治療的介入の選択において有用である。しかし、このような高リスク患者をルーチンで特定するための統一された方法は開発されていない。現在見込みのある方法の1つが、D-ダイマー値の測定である。
Barberらは、脳卒中の発症直後に得られたD-ダイマー値とENDの発症率との間の関連を確認するため、以前に従来のELISA検査を使用した3。本研究では、これらの結果を、ELISAに基づく迅速なVIDAS®測定法とラテックス凝集法に基づくMDA®測定法という、2種類の市販キットを用いる測定法により確認した。本研究の結果から、測定法の重要性だけでなく、脳虚血の早期治療の指針となる関連情報の提供におけるD-ダイマー測定の有用性に関しても、複数の重要な問題が浮上した。
D-ダイマー測定法は、1970年代に血清中のD-ダイマー断片について示されて程なく使用可能になった。初期のラテックス凝集法は、感度はかなり高かったが、臨床的に血栓閉塞性の疾患の評価に使用するには特異度が十分でなかった4。VIDAS®検査などのELISAに基づく測定法では、感度は最大化したが、特異度が低いという問題が残った。
Barberによる本研究では、VIDAS® D-ダイマー測定法とMDA®D-ダイマー測定法を、研究室の測定法(Biopool AB)と比較した。これらの測定法の間には強い相関が認められ、すべての測定法により、統計学的モデルにおいてENDの独立した予測因子となるD-ダイマー値が測定された。Barberは、技術的に異なるVIDAS測定法とMDA測定法により、非常に類似した成績が得られることを示した。D-ダイマー値の分布における90パーセンタイル値を基準に設定したカットポイントにおいて、両測定法の陽性適中率は52%であったが、対応する感度はわずか21%であった。Barberの研究により、測定法と疾患状態に関する適切なカットポイントを決定するために、実地臨床においてどの測定法を使用すべきかを明確にする必要性が強調された。
D-ダイマーの増加が凝血塊の負荷と関連しているというのは理にかなっているが、D-ダイマー値がENDを予測する具体的な機序はまだ明らかにされていない。一部の症例では、早期の悪化は、血管内の凝血塊のin situでの増殖に続発する可能性があり、このような症例では、患者は抗血栓療法により効果が得られる可能性がある。しかし、DeGrabaらの小規模研究では、抗血栓薬の使用により、脳卒中進行の頻度は低下しなかった2。したがって、D-ダイマー値が上昇している患者において、このような治療法による効果が得られるかどうかは明らかでない。一方で、D-ダイマー値の上昇は、近位の頸動脈疾患または進行中の心塞栓と関連する血栓形成の増加を示している可能性がある。
ENDにはさまざまな要素や複雑な過程が関与しており、検査の精度も限られていることを考慮すると、D-ダイマーの測定が、実地臨床において単独で役立つ可能性は低い。初期の脳卒中の重症度やベースラインのCTまたはMRI所見などの予測因子を追加することにより、D-ダイマー測定法の予測能力が補足される可能性がある。しかし、研究の手法として、D-ダイマーの評価が、早期の抗血栓薬投与に関する研究の対象となる患者の選択に役立つ可能性があり、最終的には、早期の悪化リスクのある患者における治療決定の指針として有用になる可能性がある。
References
- Davalos A et al. (1999) Neurological deterioration in acute ischemic stroke: potential predictors and associated factors in the European cooperative acute stroke study (ECASS) I. Stroke 30: 2631–2636 | PubMed | ChemPort |
- DeGraba TJ et al. (1999) Progression in acute stroke: value of the initial NIH stroke scale score on patient stratification in future trials. Stroke 30: 1208–1212 | PubMed | ChemPort |
- Barber et al. (2004) Hemostatic function and progressing ischemic stroke: D-dimer predicts early clinical progression. Stroke 35: 1421–1425 | Article | PubMed |
- Stein PD et al. (2004) D-dimer for the exclusion of acute venous thrombosis and pulmonary embolism: a systematic review. Ann Intern Med 140: 589–602 | PubMed |
