脳卒中後の二次予防策―ターゲットは脳卒中か心疾患か?
原論文
Dhamoon MS et al. (2006) Recurrent stroke and cardiac risks after first ischemic stroke: the Northern Manhattan Study. Neurology 66: 641-646
PRACTICE POINT(診療のポイント)
脳卒中またはTIA発症後に血管疾患予防の治療を選択する際、医師は冠動脈疾患予防と同時に脳卒中予防にスポットライトを当てるべきである。
SYNOPSIS(概要)
BACKGROUND(背景)
急性期の虚血性脳卒中患者は脳卒中再発および心筋梗塞(MI)のリスクが増加するが、このどちらが発症する可能性があるかは明らかでない。各々の治療結果の相対リスクを理解することにより、起こり得る事象に対して計画を立案し、より積極的に予防策にターゲットを絞ることが可能になる。
OBJECTIVES(目的)
初発虚血性脳卒中患者における脳卒中再発および心イベントのそれぞれのリスクを検討すること。
DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)
現在進行中のNorthern Manhattan Studyの患者コホートを解析対象とした。対象は40歳以上(平均年齢69.7±12.7歳)の初発虚血性脳卒中患者655例(女性55.4%)で、軽度(NIH脳卒中尺度[NIHSS]0~5)が半数(51.3%)、中等度(NIHSS 6~13)が32.3%、重度(NIHSS≧14)が16.5%であった。心血管疾患歴を有する患者の割合は高く、16.2%がMI、33.4%が冠動脈疾患(CAD)、13.8%がうっ血性心不全、11.0%が心房細動、21.6%が末梢動脈疾患であった。患者を5年間、前向きに追跡した。
OUTCOME MEASURES(評価項目)
主要評価項目は、脳卒中再発、MI、死亡(死因別)の5年累積リスク(すべて年齢・性別で補正)とした。
RESULTS(結果)
脳卒中初発後に生じる事象としてもっとも多いものは脳卒中の再発であり、致死的または非致死的な脳卒中再発の累積リスクは、30日後で1.5%(95%CI 0.6~2.5%)、5年後では18.3%(95%CI 14.8~21.7%)であった。これに対して、非致死的MIまたは致死的心イベントの累積リスクは、30日後で0.6%(95%CI 0~1.1%)、5年後では8.6%(95%CI 6.0~11.2%)であった。しかし、脳卒中は心イベントよりも死亡の寄与因子としての重要性が低く、5年後のリスクは、致死的心イベントが6.4%(95%CI 4.1~8.6%)、致死的脳卒中は3.7%(95%CI 2.1~5.4%)であった。全体的に、患者は死亡や非致死的MIの発症よりも非致死的脳卒中を発症する割合が高く、5年累積リスクは非致死的脳卒中で14.8%(95%CI 11.6~17.9%)、致死的心イベントで6.4%(95%CI 4.1~8.6%)、致死的脳卒中で3.7%(95%CI 2.1~5.4%)、非致死的MIで3.4%(95%CI 1.7~5.1%)であった。男性は女性よりも、非致死的または致死的な心イベントを発症する可能性が高かったが(5年累積リスクは11.8%[95%CI 7.6~16.0%]対7.3%[95%CI 4.3~10.4%])、非致死的または致死的な脳卒中再発の5年累積リスクは両群とも類似していた(男性17.7%[95%CI 12.7~22.8%]、女性18.6%[95%CI 14.0~23.2%])。
CONCLUSION(結論)
長期的にみて、虚血性脳卒中患者はMI発症よりも脳卒中再発の可能性が高い。しかし、このような患者では、心イベントは血管性の死因として最も重要である。
COMMENTARY(解説)
Pierre Fayad
脳卒中は成人の能力障害の主な原因であり、先進国の死亡原因の第3位を占める。脳卒中および一過性脳虚血発作(TIA)は将来の脳卒中発症を強く予測し、MIおよび心臓死のリスク増加とも関連している。脳血管疾患とCADの関係は複雑で、この2疾患のあいだには強力な相互作用と関連がみられる。
脳卒中発症後5~10年でどのような臨床イベントが生じるかを知ることは本当に重要なのだろうか? すべての患者が抗血小板療法のみで治療されるわけではなく、また大部分の患者がスタチン療法や降圧療法で治療されないのではないか?
おそらくほとんどの患者に対してこれらの薬物療法が用いられることは確かであるが、エビデンスに基づく医療では、血管床によって治療結果に対する薬物の効果が異なることが示されている。次の例がこのジレンマを示している。遮断薬は急性MI後のCADに有効であるが、高血圧患者の脳卒中予防としてはアンジオテンシン受容体遮断薬ほど効果がない1。スタチンは数年前からCADの一次予防や二次予防に有効であることが証明されているが、まだ脳卒中の二次予防として全身的な使用を支持するエビデンスは蓄積されている段階にすぎない2。短期的にみると、クロピドグレルとアスピリンの併用は、出血性合併症がやや増加するものの、間違いなくアスピリン単独よりも急性冠症候群患者の重大な虚血性イベント予防に有効である3。しかし、血管性疾患リスクの高い患者に長期にわたり抗血小板薬を併用した場合、その付加的な有効性は失われ、一方で、出血リスクが激増する4。最後に、アスピリンとジピリダモールの併用は、脳卒中をはじめとする重大な血管イベントの二次予防にかなり有効であるが5、アスピリン単独よりもMIの二次予防としての効果が高いという証明はまだない。
本研究は、初発脳卒中から生存した患者は、2回目の脳卒中を起こす可能性がMIを起こす可能性の2倍以上であるが、心イベントによる死亡の可能性は脳卒中による死亡の可能性のほぼ2倍であることを示す。この知見は、脳卒中患者またはTIA患者の管理方針決定のうえでどのように役立つだろうか? われわれは心臓死予防に焦点を当てるべきなのだろうか、それとも能力障害をきたす可能性のある2回目の脳卒中予防のほうを重視すべきなのだろうか? 脳卒中が再発する前に患者が死亡すればこれを予防する取り組みは徒労に終わるだろうが、脳卒中予防にも焦点を合わせなければ、生活の質(QOL)の向上や能力障害の予防は実現できない。
CADの予防策と脳血管疾患の予防策を明確に区別することはできないが、治療計画においてこの2疾患を完全に一緒と考えるべきではない。特定の薬物や特定の病態についてこれまで学んできたことを認識し、これに従った管理策をとるべきである。これは進行中の研究であり、治療標的は今後のさらなる疫学研究や臨床試験から得られた知見に応じて、絶えず変えていく必要がある。それまでは、知っていることとまだ知らないことの折り合いをつけるために、エビデンスに基づく原理よりも常識が優位を占めるはずである。脳卒中またはTIA発症後の管理戦略は、MI予防と同時に積極的に脳卒中予防に向けるべきである。
References
- Dahlof B et al. (2002) Cardiovascular morbidity and mortality in the Losartan Intervention For Endpoint reduction in hypertension study (LIFE): a randomised trial against atenolol. Lancet 359: 995–1003 | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
- Amarenco P et al. (2006) High-dose atorvastatin after stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med 355: 549–559 | PubMed | ChemPort |
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- Halkes PH et al. (2006) Aspirin plus dipyridamole versus aspirin alone after cerebral ischaemia of arterial origin (ESPRIT): randomised controlled trial. Lancet 367: 1665–1673 | PubMed | ChemPort |
