Practice Point

低分子量ヘパリンは癌患者の生存を改善するか?

原論文

Lee AYY et al. (2005) Randomized comparison of low molecular weight heparin and coumarin derivatives on the survival of patients with cancer and venous thromboembolism. J Clin Oncol 23: 2123–2129

PRACTICE POINT(診療のポイント)

現在のところ、低分子量ヘパリンを、癌患者の生存の改善を目的として標準的な抗癌療法に追加することは推奨できない。

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SYNOPSIS(概要)

BACKGROUND(背景)

抗凝固薬の抗腫瘍効果について検討した研究では、矛盾した結果が得られている。

OBJECTIVES(目的)

静脈血栓塞栓症(VTE)を併発した癌患者の生存に対する低分子量(LMW)ヘパリンであるダルテパリンの効果を、クマリン誘導体と比較して評価すること、および限局性癌患者と播種性癌患者における結果を比較すること。

DESIGN AND INTERVENTION(デザインと介入)

ダルテパリンと経口抗凝固療法の相対的な安全性と有効性を比較するため、国際的多施設共同非盲検無作為化試験に登録された急性VTEと固形癌を併発した患者の死亡データの事後解析を実施した。

OUTCOME MEASURES(評価項目)

無作為化後12カ月間の各投与群および癌の進行度別の死亡率を推定するためKaplan-Meier解析を行った。

RESULTS(結果)

本試験に固形癌患者602例(男性391例、平均年齢62歳)を登録し、そのうち452例に転移癌が認められた。転移癌患者のベースラインの変数には、両投与群間に差は認められなかった。転移のない患者群における肺癌患者数は、ダルテパリン投与群のほうが、経口抗凝固薬投与群より少なかった(P=0.04)。全体では、経口抗凝固薬投与群の患者306例中182例が死亡したのに対し、ダルテパリン投与群では患者296例中174例が死亡した(P=0.62、有意差なし)。転移のない患者群では、ダルテパリン群の患者75例中15例と経口抗凝固薬群の患者75例中26例が死亡した。12カ月後の死亡率(Kaplan-Meier推定値)は、ダルテパリン群で20%、経口抗凝固薬群で36%であった(ハザード比[HR]0.5、95%CI 0.27~0.95、P=0.03)。ベースラインにおける既知の予後因子で調整したところ、この結果に顕著な影響は認められなかった(調整HR0.41、95%CI 0.19~0.86、P=0.02)。解析から肺癌患者を除外しても、HRにおけるダルテパリンの優位性は変わらなかった(未調整HR0.63、95%CI 0.31~1.3、P=0.19;調整HR0.37、95%CI 0.17~0.83、P=0.02)。播種性癌患者群では、ダルテパリン投与群の患者221例中159例と経口抗凝固薬投与群の231例中156例が死亡した。Kaplan-Meier法により推定した死亡率は、それぞれ72%および69%であった。ダルテパリン群の転移のある患者と経口抗凝固薬群の転移のある患者を比較すると、HRは1.1であった(95%CI 0.87~1.4、P=0.46)。転移のある患者とない患者のサブグループでは、ダルテパリン群と経口抗凝固薬群のHRの間には統計学的に有意な差が認められた(P=0.02)。ベースラインで統計学的に有意であったリスク因子で調整後、ダルテパリンと経口抗凝固薬の投与効果は、転移のない患者群で0.43(95%CI 0.21~0.89、P=0.02)、転移のある患者群で1.1であった(95%CI 0.91~1.4、P=0.24)。

CONCLUSION(結論)

ダルテパリンは、血栓塞栓イベント発症時に転移が認められなかった固形癌患者において、12カ月後の全生存の統計学的に有意な改善と関連していた。

KEYWORDS(キーワード)

低分子量ヘパリン経口抗凝固薬生存

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COMMENTARY(解説)

Marcello Di Nisio, Harry R Buller and Ettore Porreca

Leeらの研究により、6カ月間のダルテパリン投与が、ビタミンK拮抗薬(VKA)投与に比べて、VTEイベント発症時に転移の認められない癌患者の12カ月生存率を改善する可能性が示唆された。1年後の死亡率は、ダルテパリン群で、VKA群と比べて50%減少した(P=0.02)。患者集団全体では、転移のある患者のサブグループの全生存は両投与群間で同等であった。

最近、他の3件の無作為化臨床研究において、癌患者、とくに登録時に比較的予後が良好な患者の生存に対するLMWヘパリンの効果が示されている。FAMOUS 試験では、VTEを併発していない癌患者を、1年間予防的にダルテパリンを投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けた1。ダルテパリンは、プラセボと比べて、ベースラインで予後が良好で、無作為化後に17カ月生存した患者のサブグループにおいて、統計学的に有意に長い生存と関連していた。このサブグループでは、3年生存率はダルテパリン投与群で60%、プラセボ投与群で36%であった(P=0.03)。試験全体の患者集団では生存の差は認められなかった。MALT試験では、VTEを併発していない進行性癌患者を、nadroparinを6週間投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けた2。生存期間の中央値はnadroparin投与群で延長し、登録時に平均余命が6カ月以上の患者で大きな効果が得られた。12または24カ月後の患者1例の死亡を防ぐために治療が必要な患者数は、それぞれ8例または10例のみと推定された。小細胞肺癌患者を、標準的化学療法に予防的ダルテパリンを併用投与する群またはしない群に無作為に割り付けた臨床試験においても、LMWヘパリンによる生存と疾患進行の改善が認められた3。LMWヘパリンが関連する生存中央値の延長は、限局性癌患者において顕著に認められた。

したがって、既存のエビデンスにより、LMWヘパリンの抗癌活性は腫瘍負荷によって異なり、癌の病期が早期であるほど治療効果が高いことが示唆される。残念ながら、各試験によって集団の異質性が大きいため、現在のところ、一定のLMWヘパリンレジメンからもっとも効果が得られるサブグループを(仮に存在するとしても)特定することはできない。評価されているLMWヘパリンの投与スケジュールが異なること、予後が良好な患者の定義がまちまちであること、対象とされる悪性腫瘍の種類と病期がさまざまであることから、癌患者を対象としたLMWヘパリンの使用は依然として難しい状況にある。

癌治療技術にLMWヘパリンが加わることへの期待が高まっている。治療法があるにもかかわらず、依然として癌患者の死亡率が高い現在の状況において、新たな治療法の開発は非常に重要である。腫瘍進行の異なる機序に作用する薬剤の組合せと、特定の治療の対象となる患者の最適な選択が、現在でも治療成功の決め手である。癌の標準療法に追加した場合のLMWヘパリンの作用を明らかにするため、継続中の無作為化比較試験の結果が待たれている。したがって、現在のところ、LMWヘパリンは、癌患者のVTE治療におけるVKAの代替法として検討すべきである。VTEを併発していない癌患者を対象としたLMWヘパリンの使用を推奨するのは時期尚早であろう。

References

  1. Kakkar AK et al. (2004) Low molecular weight heparin, therapy with dalteparin, and survival in advanced cancer: The Fragmin Advanced Malignancy Outcome Study (FAMOUS). J Clin Oncol 22: 1944–1948  | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
  2. Klerk CP et al. (2005) The effect of low-molecular-weight heparin on survival in patients with advanced malignancy. J Clin Oncol 23: 2130–2135  | Article | PubMed | ISI | ChemPort |
  3. Altimbas M et al. (2004) A randomized clinical trial of combination chemotherapy with and without low molecular weight heparin in small cell lung cancer. J Thromb Haemost 2: 1266–1271  | Article | PubMed | ChemPort |

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