量子コンピューティング:キャット・コードが量子エラーを訂正し、オーバーヘッドを削減する
Nature
2025年2月27日
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS:Amazon Web Services)の研究者らによる、ハードウェアのオーバーヘッドを削減する量子エラー訂正のデモンストレーションについて報告する論文が、Nature に掲載される。このシステムでは、「キャット・キュービット(cat qubit)」(キュービット〔quantum bit;量子ビット〕は、古典的なコンピューティングビットの量子版である)と呼ばれるものが使用されている。このキュービットは、量子システムの出力に混乱をきたす可能性のある特定の種類のノイズやエラーに耐えるように設計されている。このアプローチでは、他の設計と比較して、量子エラー訂正を達成するために必要なコンポーネントの総数を少なくすることができる。
量子コンピューターはエラーが発生しやすいため、特定のタスクにおいて従来のコンピューターの能力を超える可能性に限界がある。量子エラー訂正は、情報を複数のキュービットに分散させることでエラーを低減し、計算を損なうことなくエラーの特定と訂正を可能にする方法である。しかし、量子エラー訂正のほとんどのアプローチは通常、エラーに対する十分な保護を提供するために多数の追加のキュービットに依存しており、全体的な効率の低下につながる可能性がある。
Harald Puttermanらは、ボソニック・キャット・キュービット(bosonic cat qubit)と呼ばれる種類のキュービットを使用することで、より効率的な量子エラー訂正の実現可能性を探っている。このキャット・キュービットは、ハードウェアレベルでは、ある種のエラー(ビット反転と呼ばれる)に対しては本質的に高い耐性を持つが、別の種類のエラー(位相反転と呼ばれる)が発生する可能性が高くなるという欠点がある。このエラーの偏りにより、研究者らは位相反転エラーのみに焦点を当てた量子エラー訂正コードを設計することができ、結果として、追加のキュービットの数がより少なくなる、全体としてより効率的な設計が可能になる。著者らは、キャット・キュービットの配列を使用した超伝導量子回路デバイスを実証し、5つのキャット・キュービットによるエラー訂正コードでは、エラーが1サイクルあたり1.75%から1.65%に抑制されることを示した。これまでは、より大きなエラー訂正コードでエラーを抑制するには、数十個の追加のキュービットが必要であった。
これらの結果は、ボソニック・キャット・キュービットを使用することが、フォールトトレラントな量子計算(fault-tolerant quantum computation)を実現する効率的な方法である可能性を示している。著者らは、この方法には拡張性があり、効率的に拡張できる可能性があると示唆しているが、量子計算の応用を実用化できるレベルまで性能を向上させるには、さらなる最適化が必要であると指摘している。
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- Published: 26 February 2025
Putterman, H., Noh, K., Hann, C.T. et al. Hardware-efficient quantum error correction via concatenated bosonic qubits. Nature 638, 927–934 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08642-7
doi:10.1038/s41586-025-08642-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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