2017年1月号Volume 14 Number 1
「致死的変異」の正体を見極める
6万人以上のタンパク質コード領域(エキソーム)の高品質な塩基配列解読データをまとめた無料のデータベース「ExAC」とその解析結果が、2016年8月にNatureに報告された。以来、これまで「致死的」と考えられていた遺伝的変異の見方が変わりつつある。ExACを利用した解析結果が次々と報告され、無害なものも多いことが分かってきたのだ。世界中の臨床検査室でも、患者の治療方針を検討する際にはまずExACを当たるようになってきている。
Editorial
Research Highlights
News
10カ月間飛び続けられるアマツバメ
ヨーロッパアマツバメは渡りの間の99%を空で過ごすことが明らかになった。中には10カ月間飛び続けたものもいたという。
生きた細胞内でケイ素と炭素が初めて結合!
生物は豊富にあるケイ素を利用しない。このたび、ケイ素と化学結合を形成して体内の生化学経路に取り込むことのできる酵素が見いだされた。さらに、ほんの数カ所の変異を加えたところ、人工触媒をしのぐ効率でケイ素–炭素結合を形成した。
容疑が晴れたHIVペイシェント・ゼロ
HIVが米国に入った時期がこのたび明らかになった。それにより、これまで広く信じられていた「北米のエイズの流行は1人の男性によって引き起こされた」という根拠のない伝説が覆された。
マウス尾から卵を作る培養系確立
この画期的な技術を用いれば、人工的にヒトの卵を作製できる可能性があり、今後を見据えた議論が必要である。
CRISPRに対する懸念
英国のナフィールド生命倫理評議会が、遺伝子編集の影響に関する予備報告書を公表した。
薬の臨床試験報告書を公開
欧州医薬品庁は、製薬会社が提出した臨床試験報告書をオンラインで公開し始めた。
News Features
若手研究者にのしかかる重圧
今日の若手研究者は、上の世代より少ない助成金とポストをめぐり、厳しい戦いをくぐり抜けていかねばならない。
「致死的変異」の正体を見極める
世界最大級のゲノムデータベースを使った解析によって、ヒトの遺伝学についての情報が静かに着々と変わりつつある。
Japanese Author
iPS細胞を用いた新アプローチで心機能改善
iPS細胞の臨床応用に向けた研究が加速している。例えば、心筋細胞に分化誘導した上で直径数cm、厚さ0.1mmほどのシートを作製し、重篤な心不全患者の心臓に貼り付ける治療は2016年度中にも臨床試験が始まるとされる。そうした中、信州大学バイオメディカル研究所の柴祐司准教授らは、サルのiPS細胞を心筋細胞に分化させ、単一細胞のまま別個体のサルの心臓に移植する実験を世界で初めて行い、心機能改善の効果が得られることを実証した。
News & Views
現生人類の分散を描く
地理的に多様な人類集団の高カバー率のゲノム塩基配列が得られたことで、地球全体に広がった現生人類の分散について、そして地勢がゲノムの多様性をどのように形成したかについて、手掛かりが得られた。
アフリカツメガエルの難解なゲノムを解読!
重要なモデル動物でありながら、そのゲノムの複雑さから長らく解読が困難とされてきたアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のゲノム塩基配列がついに解読された。詳細な解析からは、ゲノムの進化の様子も明らかになった。
化学の多様性でマラリアに挑む
天然物に似た構造を持つ多様な化合物の大規模ライブラリーが構築され、そのスクリーニングによって、マラリア原虫の生活環の複数段階を標的とする新規の薬剤候補分子が見つかった。この分子は、単回の投与でマラリアを治療でき、耐性も生じにくいらしい。
News Scan
動物の個性と集団行動
集団にならって変わる場合もあるが基本的には一貫している
銅が悪臭の感度を増幅
チオール類の検知を強めている