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循環血中の乳酸を標的とする新規合成酵素による細胞内NADH:NAD+比不均衡の緩和
Nature Biotechnology 38, 3 doi: 10.1038/s41587-019-0377-7
細胞内のNADH:NAD+比の上昇、すなわち「還元ストレス」は、ミトコンドリア電子伝達系の障害に起因する病態を含む多くの疾患と関連付けられている。細胞内のNADH:NAD+比は循環血中の乳酸:ピルビン酸比とほぼ平衡となり得ることから、還元ストレスは細胞外の乳酸を酸化してピルビン酸にすることで緩和されるという仮説を立てた。本研究では、細菌由来の乳酸オキシダーゼ(LOX)とカタラーゼ(CAT)とを融合させることにより、乳酸と酸素をピルビン酸と水へと不可逆的に変換する合成酵素LOXCATを作製した。精製したLOXCATを、電子伝達系の機能不全を示す培養ヒト細胞の培地に添加すると、細胞外の乳酸:ピルビン酸比が低下し、細胞内NADH:NAD+比が正常化し、解糖系のATP産生が亢進し、細胞の増殖が回復した。マウスの尾静脈にLOXCATを投与すると、循環血中の乳酸:ピルビン酸比が低下し、メトホルミンによる血中の乳酸:ピルビン酸比の上昇が鈍化し、心臓および脳のNADH:NAD+比の不均衡が改善された。本研究の結果は、循環血中の酸化還元共役代謝物を直接的に標的とすることによって細胞内の酸化還元不均衡を緩和する経静脈投与可能な治療用酵素薬の基礎を確立するものである。