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ミトコンドリアの銅の枯渇によってマウスのトリプルネガティブ乳がんを抑制する
Nature Biotechnology 39, 3 doi: 10.1038/s41587-020-0707-9
ミトコンドリアの銅を枯渇させることは、代謝を呼吸から解糖へ移行させてエネルギー産生を抑制することから、酸化的リン酸化に依存するタイプのがんに有効であることが知られている。しかし、既存の銅キレート剤は毒性が強過ぎるか、さもなければがん治療効果を持たない。今回我々は、ミトコンドリアを標的とする安全な銅枯渇ナノ粒子(CDN)を開発し、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する試験を行った。その結果、TNBC細胞では、CDNが酸素消費と酸化的リン酸化を抑制し、代謝を解糖へと切り替え、ATP産生量を減少させることが明らかになった。このエネルギー欠乏は、ミトコンドリア膜電位の低下と高い酸化ストレスと相まって、アポトーシスを生じる。CDNは、全身での銅枯渇を生じるのではなく、がん細胞のミトコンドリアの銅を優先的に枯渇させるので、既存の銅キレート剤よりも毒性が低いと考えられる。実際に、我々は健康なマウスにおいて、CDNの毒性が低いことを実証した。3種類のTNBCマウスモデルでは、CDNの投与によって腫瘍の増殖が抑制され、生存期間が大幅に延長した。CDNの有効性と安全性は、この方法が臨床的に有用であることを示唆している。