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哺乳類で用いる小型で高感度な赤色・遠赤色光遺伝学的スイッチ

Nature Biotechnology 40, 2 doi: 10.1038/s41587-021-01036-w

光遺伝学技術は、時空間的に生物学的過程の厳密な制御を行う能力を一変させた。しかし、従来の真核生物の光遺伝学系は、光遺伝学モジュールの大きさや複雑さ、照射時間の長さ、組織侵達度の低さ、活性化・不活性化速度の低さによって制約されている。本論文では、赤色・遠赤色光で動作するΔフィトクロムA(ΔPhyA)系の小型光スイッチ(REDMAP)系を紹介する。その基盤である植物の光受容体PhyAは、660 nmの光を照射するとシャトルタンパク質far-red elongated hypocotyl 1(FHY1)と迅速に結合し、730 nm光で解離が起こる。我々は、内在性Ras/Erkマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードの動的なオンオフ制御や、REDMAPを介したCRISPR–dCas9(ヌクレアーゼ不活性型Cas9)(REDMAPcas)系によるマウスのエピジェネティックリモデリングの制御など、REDMAPの応用例を複数示した。また、マウス、ラット、ウサギを用い、アデノ随伴ウィルス(AAV)によって送達された導入遺伝子や埋植したマイクロカプセルから細胞に取り込まれた導入遺伝子の発現を発光ダイオード(LED)の照射で活性化させることにより、REDMAPツールのin vivo応用の有用性も示した。さらに、REDMAPを用いてインスリンの発現を引き起こすことにより、1型糖尿病のマウスとラットのグルコース恒常性を制御した。REDMAPは、動物の生物活性の厳密な時空間的制御を行う小型の高感度なツールであり、基礎生物学的用途や治療への応用が考えられる。

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