Review Article
膜タンパク質を標的とする計算による医薬品開発
Nature Biotechnology 42, 2 doi: 10.1038/s41587-023-01987-2
膜タンパク質を標的とする医薬品開発における計算生物学の応用は、ディープラーニングを原動力とする構造予測、構造解明の速度と分解能の向上、機械学習による構造に基づく設計、およびビッグデータの評価における最近の発展によって後押しされてきた。機械学習ツールに基づく最近のタンパク質構造予測は、水溶性タンパク質と膜タンパク質に関して驚くほど信頼性の高い結果をもたらしてきたが、膜タンパク質を標的とする医薬品の開発には限界がある。膜タンパク質の構造変化は膜を介したシグナル伝達で中心的な役割を担っており、治療用の化合物によって影響を受けることが多い。膜を介した動的なシグナル伝達ネットワークの構造的基盤と機能的基盤を解明することは、とりわけ天然の膜や細胞の環境内では、今なお医薬品開発の中心的な課題となっている。こうした課題に取り組むには、細胞シグナル伝達ネットワークの分子相互作用やそれらの潜在的薬物による調節を定量化する超解像顕微鏡法、天然の細胞膜や細胞全体におけるタンパク質の構造変化を明らかにするクライオ電子顕微鏡法、細胞シグナル伝達ネットワークの構造や機能に関するデータの解析・予測や有望な医薬品候補の生成を行う計算ツールなど、実験ツールと計算ツールの相互作用が必要である。