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神経膠腫:神経膠腫における転写の細胞状態でのエピジェネティックな書き込み、遺伝率、可塑性
Nature Genetics 53, 10 doi: 10.1038/s41588-021-00927-7
単一細胞RNA塩基配列決定から、がんでは転写における細胞状態に広範な多様性があることが明らかにされ、これは遺伝的不均一性とは独立に観察されることが多く、悪性細胞状態がエピジェネティックにどのように書き込まれるのかという重要な疑問を浮かび上がらせた。これに取り組むために、本論文では、びまん性神経膠腫のマルチオミクス単一細胞プロファイリング(同一細胞内でDNAメチル化、トランスクリプトーム、遺伝子型を解析し、統合する)を行った。びまん性神経膠腫は、転写における細胞状態に明確な多様性が見られることを特徴とする腫瘍である。固有の細胞状態を示すエピジェネティックなプロファイリング同士を直接比較すると、神経発生の進行を捉えることのできる重要な細胞状態の転換が起きていることが明らかになり、エピジェネティックな機構の調節不全が神経膠腫形成の基盤となることが示された。さらに、ヒト試料の高分解能の系統樹を作成し、細胞状態の遺伝率と移行動態を直接測定できる定量的枠組みを開発した。その結果、IDH変異型神経膠腫とIDH野生型膠芽腫では、階層的および可塑的な細胞状態構造に重要な差異があることに加え、それぞれの悪性細胞状態の遺伝率が明らかになった。この研究は、がんにおける転写の細胞状態を、そのエピジェネティックな書き込み、遺伝、移行の動態に結び付ける枠組みとなる。