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がんの進化:同義変異から明らかになった健康な組織でのゲノム規模レベルの正の選択
Nature Genetics 53, 11 doi: 10.1038/s41588-021-00957-1
健康な組織において正の選択を受ける遺伝的変化はがんのリスクに関与している。しかし、ゲノム全体にわたり、正の選択が量的にどのくらいなのかは分かっていない。パッセンジャー変異は、変異の種類やゲノムでの位置に関係なく、全てのドライバー変異の影響を受ける。従って、パッセンジャー変異の総数を用いると、ドライバー変異の総数を推定できる。これには、従来見逃されていた、がん遺伝子以外の未特定のドライバー変異が含まれる。本論文では、健康な血液と食道に由来する同義変異の変異対立遺伝子頻度がどのような値をとるかを解析して、見逃されている正の選択を定量化した。血液では、パッセンジャー変異の30%のみがドライバー遺伝子の一塩基変異によって説明できることが分かったことから、ゲノムのいろいろな位置の変異に対して働く正の選択が高レベルで存在することが示唆された。対照的に、食道の全パッセンジャー変異の半数以上は、NOTCH1およびTP53という2つのドライバー遺伝子のみで説明が可能であり、ゲノムの他の位置での正の選択はほとんどないことが示唆された。