ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)を活性化する体細胞変異は、p110-α触媒サブユニット(PIK3CAによってコードされる)で見つかっている。こうした変異は、らせん状ドメイン(E545KおよびE542K)とキナーゼドメイン(H1047R)という2か所のホットスポットに最も高い頻度で認められる。p110-α変異体細胞はin vitroで形質転換を起こすが、その発がん能は遺伝子改変マウスモデルでの評価が行われていない。また、複数のPI3K阻害剤の臨床試験が最近開始されたが、それらの有効性が、遺伝学的に限定される特定の悪性腫瘍に限られているのかどうかはわかっていない。我々は、p110-α H1047Rの発現によって発症し維持される肺腺がんのマウスモデルを作製した。これらの腫瘍に対して、pan-PI3KとmTOR(mammalian target of rapamycin)の2つを標的とする臨床開発中の阻害剤NVP-BEZ235を投与すると、腫瘍の大幅な退縮が引き起こされることが陽電子放射断層・コンピュータ断層複合撮影、磁気共鳴画像法および顕微鏡検査によって示された。対照的に、Krasの変異によって誘発されたマウス肺がんは、NVP-BEZ235の単剤投与には概して反応を示さなかった。しかし、NVP-BEZ235とMEK(mitogen-activated protein kinase kinase)阻害剤であるARRY-142886を併用した場合は、このようなKras変異をもつがんの退縮に著しい相乗効果がみられた。これらのin vivo研究から、PI3K-mTOR経路の阻害剤はPIK3CA変異をもつがんに有効であると考えられ、またこれらの阻害剤とMEK阻害剤との併用はKRAS変異をもつ肺がんの治療にも有効である可能性がある。