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糖尿病:高血糖によるPKC-δおよびSHP-1の活性化は血管細胞のアポトーシスと糖尿病網膜症を引き起こす

Nature Medicine 15, 11 doi: 10.1038/nm.2052

高血糖が誘発する細胞のアポトーシスは多くの血管細胞で起こり、糖尿病病変の開始に重要である。網膜では、周皮細胞のアポトーシスと無細胞毛細血管(acellular capillary)の形成は高血糖に起因する最も特異的な血管病変であり、これらは血小板由来増殖因子(PDGF)を介する生存促進作用の不活性化(機構は不明である)につながる。本論文では、高血糖によって、プロテインキナーゼC-δ(PKC-δ、Prkcdにコードされる)およびp38αマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)が持続的に活性化され、PKC-δシグナル伝達のこれまで知られていなかった標的であるプロテインチロシンホスファターゼのSHP-1(Src homology-2 domain-containing phosphatase-1)の発現が上昇することを示す。このシグナル伝達カスケードは、PDGF受容体βの脱リン酸化と、この受容体の下流のシグナル伝達の減衰を引き起こし、その結果、NF-κ B(nuclear factor-κ B)シグナル伝達とは無関係に周皮細胞のアポトーシスを引き起こす。糖尿病マウスの網膜では、PKC-δ活性の上昇と無細胞毛細血管数の増加が認められ、これらは正常血糖値を達成するインスリン投与によって回復しなかった。Prkcd−/−糖尿病マウスでは、年齢が一致する野生型糖尿病マウスとは異なり、p38α MAPKあるいはSHP-1の活性化、血管細胞でのPDGFシグナル伝達の阻害、無細胞毛細血管の存在は認められなかった。糖尿病マウスの脳周皮細胞および腎皮質でもPKC-δ、p38α MAPKおよびSHP-1の活性化がみられた。これらの知見は、高血糖がPDGF抵抗性を誘導し血管細胞のアポトーシスを増加させることにより糖尿病性血管合併症を引き起こし得る、新規のシグナル伝達経路を明らかにしている。

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