ハンチントン病はハンチンチンをコードする遺伝子HTTのCAG反復配列の伸長によって引き起こされる疾患であり、線状体および皮質のニューロンの損失をきたす。この遺伝子の産物が広汎に発現されているならば、なぜニューロンが選択的に標的となるのか、その理由はまだわかっていない。今回我々は、シナプス内およびシナプス外受容体の活性、変異型ハンチンチンタンパク質(mtHtt)の封入体形成とニューロン生存との関係を示す。シナプス内N-メチル- D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体(NMDAR)活性は、TRiC(T complex-1 ring complex)複合体に依存した機序を介してmtHttの封入体形成を誘導して、mtHttによる細胞死に対するニューロンの抵抗性を高める。これに対して、シナプス外NMDARの刺激は、神経を保護するサイクリックAMP応答配列結合タンパク質(CREB)-ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α(PGC-1α)カスケードを障害し、低分子量グアニンヌクレオチド結合タンパク質であり、mtHttをSUMO化して脱凝集させることが知られているRhesの増加により、mtHttを有するニューロンに細胞死をおこさせやすくする。128CAGリピート(YAC128)を含む酵母人工染色体を発現するトランスジェニックマウスに低用量のメマンチンを投与すると、シナプス外NMDARが遮断されるが、シナプス内NMDARは遮断されず、神経病理学的および行動的な症状は改善される。これとは対照的に高用量のメマンチンでは、シナプス内とシナプス外のNMDAR活性が共に遮断され、ニューロンの封入体が減少して転帰が増悪する。これらの知見は、ハンチントン病で傷害を受けやすいニューロンを保護するための合理的治療法を示している。