Letter 腎疾患:多発性嚢胞腎症における有糸分裂時の転写切り替え 2010年1月1日 Nature Medicine 16, 1 doi: 10.1038/nm.2068 肝細胞核因子1β(HNF-1β)は、いくつかの腎嚢胞遺伝子の発現に必要な転写因子であり、出生前に欠失すると多発性嚢胞腎(PKD)が発症する。本論文では、出生後10日目以降のHnf1bの不活性化では、増殖性の伸長によって形態形成が完了した後の尿細管の嚢胞状拡張が誘発されないことを示す。嚢胞形成に対する抵抗性は、細胞の静止状態と本質的に関連している。実際、Hnf1bを欠失する静止期細胞に、虚血再灌流傷害によって増殖を起こさせると、細胞分裂の方向性が失われているために嚢胞が形成される。静止期の細胞では、嚢胞形成に極めて重要な標的遺伝子の転写は、HNF-1βが存在しなくても維持されている。しかし、それらの発現は細胞が増殖しはじめると直ちに停止し、標的遺伝子のクロマチンはヘテロクロマチンの特徴を示すようになる。これらの結果は、遺伝子調節のこれまで知られていなかった性質を明らかにしている。有糸分裂におけるクロマチンの凝縮時に転写が停止することはすでに確証されている。我々は、HNF-1βのような転写因子は、有糸分裂の際のクロマチン凝縮によって転写抑制が誘発された後に遺伝子発現を再プログラム化する過程に関与していると考える。HNF-1βが有系分裂の際に樽状に凝縮された染色体に結合したままであるのは注目すべきである。この結合は、HNF-1βは有糸分裂の際の転写抑制後に標的遺伝子のクロマチンを再び開くのに必要な目印となる因子であることを示唆している。 Full text PDF 目次へ戻る