細胞の損傷時に放出される危険シグナルは、急性の移植片対宿主病(GVHD)、アロ移植片拒絶や全身性炎症反応症候群に認められるような過剰な免疫による組織破壊を引き起こすことがある。ATPは生理的な条件下で細胞外間隙に低い濃度で検出されること、そしてATPの受容体P2X7Rが複数の免疫細胞種に発現していることを考慮すると、死にかけている細胞から放出されたATPは危険シグナルとして機能する可能性がある。全身放射線照射後およびマウスとヒトのGVHD発症時には、腹水中のATP濃度が上昇することが観察された。抗原提示細胞(APC)をATPで刺激すると、in vitroおよびin vivoでCD80とCD86の発現が増加し、またSTAT1 (signal transducer and activator of transcription-1)リン酸化、インターフェロンγ産生およびドナーT細胞の増殖などの炎症性事象のカスケードが始動する一方で、調節性T細胞の数は減少した。GVHDが進行するとP2X7Rの発現は増加し、APCがATPの有害な作用に反応しやすくなり、その結果正のフィードバックシグナルがもたらされる。GVHD発症時におけるATPの中和、発症早期からのP2X7R阻害もしくはP2X7Rの遺伝的欠損により、免疫麻痺を起こすことなく生存率が改善した。P2X7Rを介して作用する危険シグナルの薬理学的阻害は、強い免疫抑制を必要とせずに寛容を発生させるので、これらのデータは移植医療に大きな意味をもつ。