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血液疾患:凝固第IXa因子と第X因子に対する二重特異性抗体は血友病Aモデルで凝固第VIII因子の止血活性を復元する
Nature Medicine 18, 10 doi: 10.1038/nm.2942
血友病Aは、凝固第VIII因子(FVIII)欠損の結果生じる出血性疾患である。外部から投与したFVIIIは、重症血友病A患者で出血性合併症を効果的に低減させる。しかし、FVIII分子が「外来性」であるため、このような患者の約30%でFVIIIに対する阻害抗体(インヒビター)の産生が誘導され、インヒビターが生じた患者群ではFVIIIによる治療が実施できなくなる。さらに、FVIIIは薬物動態が悪く、皮下からの生物学的利用率が低いこと、および半減期が0.5日と短いことから、頻回の静脈内投与が必要である。これらの問題点を克服するために、我々は凝固第IXa因子(FIXa)と凝固第X因子(FX)に対するヒト化二重特異性抗体「hBS23」を作製した。hBS23は、これら2つの凝固因子を空間的に適切な位置に配置し、FVIIIの補因子としての機能を再現する。hBS23は、FVIII欠乏血漿中ではインヒビター存在下でも凝固活性を発揮し、非ヒト霊長類を用いた後天性血友病Aモデルでin vivoの止血作用を示した。注目すべきことに、hBS23は皮下からの生物学的利用率が高く、2週間の半減期を有しており、さらにFVIIIとは分子構造すなわち抗原性が異なるためFVIII特異的阻害抗体の産生を誘導することはないと考えられる。インヒビターの影響を受けず、長時間作用し、かつ皮下投与が可能な薬剤は、血友病A治療の負担を大きく軽減できるだろう。