幹細胞:多能性幹細胞を用いたヒト小腸のin vivoモデル
Nature Medicine 20, 11 doi: 10.1038/nm.3737
ヒト多能性幹細胞(hPSC)を分化させた臓器特異的サブタイプ細胞は、胚発生や疾患経過の研究、また薬理学的研究に新しい道を開き、また治療用移植細胞の有望な供給源として期待されている。現在のところ、ヒト小腸のin vivoモデルは限られており、上皮細胞の初代培養細胞に依存するもの、あるいは外科的生検試料由来の間充織細胞を含む消化後組織を生分解性の足場上に移植したもののどちらかである。我々は、ヒト胚性幹細胞(ESC)あるいは誘導多能性幹細胞(iPSC)からin vitroでヒト小腸オルガノイド(HIO)を作製し、このオルガノイドがin vivoで生着可能であったことを報告する。HIOは成熟したヒト小腸上皮を形成し、小腸幹細胞が陰窩‐絨毛構造の形成およびヒト間充織の積層に関わっている。これら2つの機能はHIO内に伸長したマウスの血管系によって支持されていた。in vivo移植を行った結果、上皮および間充織の著しい拡張と成熟が起こった。これは、腸細胞系譜の分化した細胞(腸細胞、杯細胞、パネート細胞、房飾細胞、腸内分泌細胞)や機能を備えた刷子縁酵素群(ラクターゼ、スクラーゼ-イソマルターゼ、ジペプチジルペプチダーゼ4)の存在、またin vitroで作製されたHIOと比較した場合に上皮下および平滑筋の層構造が観察されたことで実証された。移植された腸組織は消化機能を持つことが、透過性とペプチド取り込み実験によって示された。さらに、移植されたHIO由来組織では、宿主マウスの回盲部切除に起因する全身性シグナルに対する応答が見られ、これはマウスの循環血中因子が腸の適応応答に関わっていることを示唆している。このヒト小腸モデルは、腸の生理機能や疾患の研究に加えて、トランスレーショナル研究に道を開くだろう。