神経変性疾患:血漿リン脂質は高齢者における記憶障害の前駆状態を明らかにする
Nature Medicine 20, 4 doi: 10.1038/nm.3466
アルツハイマー病は進行性認知症を引き起こす。この疾患は現在世界中で3,500万人以上が罹患しており、2050年までに罹患者の数は1億1,500万人に達すると予測されている。アルツハイマー病は治癒することがなく、根治療法も存在しないが、これは明らかな記憶喪失や機能低下が生じるまではこの疾患を検出できないためであるかもしれない。前臨床段階のアルツハイマー病のバイオマーカーは、根治療法の開発に重要であり、予防的療法にも有用と考えられる。初期アルツハイマー病のバイオマーカーとして現在知られているものには、脳脊髄液中のタウやアミロイドβの濃度、構造的および機能的核磁気共鳴画像化、また最近では脳アミロイド画像化あるいは加齢炎症(inflammaging:老化に伴う炎症の亢進)などがあるが、これらは侵襲的であったり、時間がかかる、あるいは高価であるために利用が限られている。血液中に含まれるバイオマーカーはより好ましい選択肢となる可能性があるが、前臨床段階のアルツハイマー病検出に必要とされる感度および特異性を備えた血中バイオマーカーは現在のところは存在しない。本論文では、認知力が正常な高齢者集団で前臨床段階のアルツハイマー病を検出するためのリピドミクスによる手法について述べる。我々は、末梢血中の10種の脂質の組み合わせによって、健忘軽度の認知障害あるいはアルツハイマー病のどちらかへの表現型変換が、2〜3年間という時間枠内で90%以上の精度で予測されることを見いだし、その有効性を確認した。このバイオマーカー集団は細胞膜の完全性を表しており、前臨床段階のアルツハイマー病の初期の神経変性に感受性であると考えられる。