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がん:CRISPR-Cas9により改変したヒト腸管オルガノイドを用いた大腸がんモデル

Nature Medicine 21, 3 doi: 10.1038/nm.3802

ヒトの大腸がんでは、WNT、MAPK、TGF-β、TP53、PI3K経路で働くタンパク質をコードする遺伝子に変異が頻発する。これらの経路は、腸管上皮幹細胞ニッチのシグナル伝達に影響を及ぼすが、これらの経路の変異がヒト大腸がん発生にどの程度関与するのかは不明である。我々は、CRISPR-Cas9ゲノム編集システムを用いて、このような変異を、ヒトの正常な腸管上皮から作製したオルガノイドに導入した。培養条件を調節することで腸管上皮幹細胞ニッチの状態を再現し、腫瘍抑制遺伝子のAPCSMAD4およびTP53、がん遺伝子のKRASPIK3CA、あるいはその両方に変異を持つ遺伝子改変オルガノイドを純化した。これらの5つの遺伝子の全てを変異させた遺伝子改変オルガノイドは、in vitroでニッチ因子に依存せずに増殖し、マウスの腎皮膜下に移植すると腫瘍を形成した。マウスの脾臓に注入した場合は休眠状態のがん幹細胞を含む微小転移巣が形成されたものの、肝臓では定着しなかった。対照的に、染色体が不安定なヒト腺腫から作製したオルガノイドを用いると、肉眼的転移巣が形成された。以上の結果は、腫瘍微小環境では「ドライバー」経路の変異が幹細胞の維持を可能にするが、浸潤を起こすにはさらなる分子的損傷が必要であることを示唆している。

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