糖尿病:GIPRシグナル伝達は、TCF1を介してβ細胞の機能および生存の制御に関わっている
Nature Medicine 22, 1 doi: 10.1038/nm.3997
グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体は、栄養素によって活性化されたシグナルを伝達して、β細胞の機能を制御している。GLP-1受容体(GLP-1R)は糖尿病治療薬の標的であることが確証されているが、β細胞の機能に対するGIP受容体(GIPR)の重要性は明らかにされていない。本論文では、GIPRをβ細胞選択的に除去したマウス(MIP-Cre:GiprFlox/Flox; Gipr−/−βCell)は、対照のMIP-Cre型マウスと比較すると、食餌によって引き起こされるインスリン分泌レベルが低く、脂肪組織の増大が少なく、インスリン感受性が保持されていることを明らかにする。Gipr−/−βCellマウスのβ細胞は、アポトーシスに対する感受性が高くβ細胞での機能がこれまで調べられていないTCF1(T cell-specific transcription factor-1、Tcf7にコードされる)の膵島での発現が著明に低下している。GIPは、β細胞でのTcf7発現をサイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)非依存性で、ERK(extracellular signal-regulated kinase)依存性の経路を介して促進するが、GLP-1は促進しない。糖尿病マウス膵島でのTcf7発現レベル、もしくは2型糖尿病患者に由来する膵島でのTCF7発現レベルは低いことが分かった。ヒトおよびマウスの膵島でTCF7をノックダウンすると、GIPに対して生じる細胞保護的な反応性が損なわれ、アポトーシス性損傷の規模が増大する。一方、Gipr−/−βCellマウスのβ細胞でTCF1レベルを元に戻すと、アポトーシス細胞の数がMIP-Cre対照マウスで見られるよりも少なくなる。Tcf7−/−マウスは、対照となる野生型(WT)マウスに比べるとインスリン分泌が障害されていて、加齢や高脂肪食摂食に伴う耐糖能の低下を来たし、β細胞損傷に対する感受性が上昇する。従って、GIPR-TCF1系は、損傷を受けやすい糖尿病β細胞の機能と生存を維持するための治療標的となる可能性がある。