Editorial

目先にとらわれるな

Nature Medicine 22, 1 doi: 10.1038/nm.4033

米国科学界は研究の再現性の問題を科学界の危機としてとらえ、がん研究と心理学研究の再現性を確認するReproducibility project: Cancer Biology, Psychologyを組織し、検証活動が開始された。心理学研究については、すでに予定した論文の半数ほどについての結果が報告され、調べた100の研究のうちで再現できたものがほぼ40%という数字が大きく報じられ、これは一部の科学研究の結果の再現性の低さをさらに印象づけることとなった。がん研究については、再現を試みる論文の数が予算不足のために当初の計画の50から37に縮小されたが、心理学論文と同じような数字が出れば、これはさらに大々的に報道されるだろう。こうした数字は、問題の大きさをはっきりさせた点では価値があるといえるが、再現性のない研究への投資や、そうした研究のジャーナル掲載を最小限にする対策という、当初の目標を達成するための第一歩とはならない。確実に再現できる結果を得ようとするなら、サンプルサイズの拡大、実験の繰り返しは不可欠となり、コストの増大は避けられないことを研究費の分配を行う側は忘れてはならない。がん研究についての再現実験の数の予算不足による縮小は、統計的な検証を不確実なものにして、プロジェクト全体の信頼性を低下させる可能性がある。そして、限られた数の論文だけについての再現性実験で得られた数字が不適切に使われれば、公的な研究資金の減額など、最初の意図とは異なる影響が出かねない。数字だけに目を奪われることなく、こうした再現性の低さを避けるために必要なハードな実験計画のことを、我々は考慮しなくてはいけない。さらに言うなら、生物医学実験は再現性がどれほど確証されたとしても、トランスレーショナル研究によって臨床に持ち込まれた際の成功が確保されるとは全く限らないのである。

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