Editorial 患者の同意書の選択肢を増やすことは、データへのアクセスを容易にしてアクセス数を増やすことにつながる 2016年4月1日 Nature Medicine 22, 4 doi: 10.1038/nm.4088 臨床的注釈づけが行われ、公開されているヒトゲノムデータの量が増えれば増えるほど、トランスレーショナル研究は加速するだろうという考えに異議を唱える人はあまりないだろう。だが、ゲノムデータの公開には患者のプライバシーに対するリスクが必ずつきまとう。公開されているデータベースで、個人情報が非特定化されたゲノミクスデータが誰のものかを突き止めるのは可能であることが、過去十年間に複数の論文によって実証されている。そのため、非特定化されたゲノミクスデータや表現型データを含むデータベースの閲覧が制限されるようになり、データの提供者がサインした同意書に合った研究を行う研究者だけが閲覧許可を得られるようになった。こうした処置によって、個人データが悪意を持つものの手に渡る事例は大幅に減ったのだが、この方式にはかなりの弊害もあることが分かってきた。データを実際に使う際に非常に煩雑な手続きが必要となったことで、オープンアクセスのサイトに比べるとアクセス数が少なくなったのである。そして、研究成果をデータベースに掲載してもらうまでの手続きもまた非常に面倒になった。こうした遅れは論文のジャーナルへの掲載の大幅な遅れに直結するので、ここでも大きな問題が生じつつある。 だが実際のところ、研究参加者のプライバシーを守るためのアクセス制限は、参加者全てが必須だと考えているわけではないらしい。テキサス州で行われた調査では、個人の特定が確実に避けられるならば、ゲノム塩基配列解析データを完全にオープンにするのに同意するという患者が大多数という結果が出た。もちろん、この結果を一般化するのには十分な注意が必要である。どういう条件に同意するかは、参加者の健康状態、社会的経済的な状況、居住地域やそこの文化によって大きく変わってくるだろう。 こうした状況下で、個人情報共有に同意する際の選択肢をもっと増やしたり、動的なものに変えたりしようという動きがあり、そうした上で、研究者が比較的短い質問リストに対して十分満足のいく回答を返せば「有資格者」として認定し、アクセスを許可するという方式が検討されている。この方式は自身の個人データに対して患者がもっと大きな裁量権を持つ(同意条項について後からでも変更ができるようにする)ことが目標である。データアクセスの際の選択肢のリスクと利便性に関する知識の理解が速やかに広がり、研究参加者と研究者の両方が満足できるような解決法が早期に出現することを我々は強く望んでいる。 Full text PDF 目次へ戻る