Editorial

科学から政治を排除せよ

Nature Medicine 22, 5 doi: 10.1038/nm.4111

米国では中絶胎児組織の研究利用について激しい議論が続いており、これは中絶を援助する組織への暴力的な攻撃などに影響を与えていると考えられているが、こうした議論が勃発する底流には胎児組織を使う研究は不必要だとする政治家の思惑があると見られている。また気候科学の研究でも、地球温暖化が一時停止しているという考え方を否定するNOAA研究者の論文が公表された数週間後に米国海洋大気庁の局長が連邦議会下院の科学・宇宙・技術委員会の委員長に召喚され、その後データの誇張や歪曲が取りざたされるようになった。温暖化は科学ではなく政治の問題になりつつあり、この問題に対して否定的な記事が出るのは米国では珍しいことではない。この他にもNIHが獲得したHIV研究予算に対して保守勢力や宗教関係者からクレームがつき、議会が乗り出すなど、科学研究への政治の介入はあからさまになってきている。  科学研究予算の配分決定あるいは研究結果の評価には、政治的、社会的、また宗教的な見方というものは何の役割も果たさない。米国議会は研究予算の分配には責任があるが、いったん配布された研究費の使い方は、研究計画の持つ可能性とそのインパクトを専門家として予想できる研究者によって決定されるべき問題である。科学の政治への利用は継続的に起こっており、科学の進歩を妨げ、科学の進歩が米国だけでなく世界にもたらす経済的、社会的そして医学的利益を失わせることにつながる。米政府内外では科学否定論者の声が大きくなりつつあるが、対象がどんな分野であれ、科学に対する攻撃は、現在と未来の人の健康を脅かす。科学を政治問題化することは、もう止めなくてはいけない。

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