睡眠:特定のニューロンのラプスは、断眠後に起こるヒトでの認知ラプスに先行する
Nature Medicine 23, 12 doi: 10.1038/nm.4433
断眠は、高血圧、糖尿病、肥満、心臓発作、脳卒中のリスク上昇など、健康へ広範囲にわたる影響を及ぼす病的状態の主要な原因である。断眠はまた、自動車事故や医療過誤を引き起こすので医学研究の喫緊のテーマとなっている。断眠の際には恒常的過程と日周的過程の相互作用により眠気が生じ、その結果として行動遂行の速度低下(認知ラプス)が起こり、これは一般的には視床や前頭頭頂の注意回路に起因するとされている。しかし、その基盤となる機構は解明されていない。最近、ヒトでの脳波図(EEG)や非ヒト霊長類や齧歯類での局所フィールド電位(LFP)の研究から、断眠の際には局所的な「睡眠様」の徐波およびシータ波(徐波/シータ波)が、覚醒状態での行動遂行障害と同時に生じることが分かった。本論文では、一夜断眠した後のセッションなど、多数の実験セッションにわたって、顔・非顔判定のPVT(psychomotor vigilance task)により覚醒調査を行ったヒト神経外科患者で、頭蓋内電極を用いて単一ニューロン活性とLFPを記録した。その結果、認知ラプスが見られる直前に、内側側頭葉(MTL)の個々のニューロンの選択的発火応答が減弱、遅延、延長することが分かった。このような「ニューロンのラプス」は、最も遅い行動PVT反応時間と最も速い行動PVT反応時間と比較した際にトライアルベースで明白となった。さらに、認知ラプスの際には、LFPで徐波/シータ波の活動の相対的な局所上昇が見られ、これは単一ニューロン応答の減弱やベースラインのシータ波活動と相関していた。我々の結果は、認知ラプスにはMTLでのニューロン活動にすでに起こっている局所状態依存的な変化が関わっていることを示している。