がん治療:SAMHD1をVpxタンパク質の標的とすることで血液悪性腫瘍に対するシタラビン療法の効果を改善する
Nature Medicine 23, 2 doi: 10.1038/nm.4265
細胞増殖抑制性のデオキシシチジン類似体であるシタラビン(ara-C)は、急性骨髄性白血病(AML)で使用できる最も効果の高い薬剤である。アントラサイクリン系薬剤とともに、ara-Cは小児から成人までのAML治療にきわめて重要な役割を担っている。AMLでは、ara-Cのin vitroでの細胞毒性と、ara-C療法に対する治療応答が共に、ara-C三リン酸(ara-CTP:DNA合成の擾乱によりDNA損傷を引き起こす活性を持つ代謝産物)を蓄積するAML芽球の能力と相関している。ara-Cに対する既知の輸送体や代謝酵素の発現レベルの差異では、AML芽球でのara-CTP蓄積やara-C療法への応答性の患者ごとのばらつきを部分的にしか説明できない。本研究では、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)トリホスホヒドロラーゼであるSAMHD1(SAM domain and HD domain 1)が、細胞内ara-CTPプールの解毒を促すことを明らかにする。組換えSAMHD1はin vitroでara-CTPアーゼ活性を示し、サル免疫不全ウイルス(SIV)タンパク質のVpxの投与によりSAMHD1発現が一過的に低下した細胞はara-Cによる細胞毒性に著しく高い感受性を示すようになる。CRISPR–Cas9を用いてSAMHD1をコードする遺伝子を破壊すると、細胞はara-Cに対して高い感受性を示すようになり、この感受性は野生型(WT)SAMHD1の異所的発現により打ち消されたが、dNTPアーゼ活性を欠失するSAMHD1ではこうした影響は見られない。SAMHD1を欠失したAMLマウスモデルはara-Cに対して非常に高い感受性を示すようになり、ex vivoでのVpx投与は患者由来の初代AML芽球をara-Cに対して感受性にした。さらに、ara-C療法を受けたde novo AMLの小児患者と成人患者の両コホートで、SAMHD1がリスク因子であることが突き止められた。したがって、SAMHD1の発現レベルは患者のara-Cに対する感受性を決定づけており、これはSAMHD1をVpxの標的とすることが、血液悪性腫瘍でのara-Cの効果を増強する有望な治療戦略となりうることを示す概念実証となる。