糖尿病:ピルビン酸キナーゼM2の活性化は糖尿病に伴う腎糸球体病変やミトコンドリア機能不全の進行を防止する可能性がある
Nature Medicine 23, 6 doi: 10.1038/nm.4328
糖尿病性腎症(DN)は末期腎疾患の主要な原因であり、その進行を防止する治療選択肢は限られている。我々は新たな治療戦略を見つけだす目的で、非常に長期間(50年以上)にわたって継続的に糖尿病を罹患している患者の中から、DNを発症していない患者とDNの組織学的兆候を呈している患者を選んで腎糸球体のプロテオーム解析を行い、DNを防止する因子について調べた。DNを発症していない糖尿病患者では、解糖系経路、ソルビトール分解経路、メチルグリオキサル分解経路およびミトコンドリア経路の酵素が増加しており、特にピルビン酸キナーゼM2(PKM2)の発現および活性が上方調節されていた。作用機序としては、高血糖および糖尿病は、マウス糸球体や培養足細胞でスルフェニル化によってPKM2の四量体形成と活性を低下させることが分かった。Pkmノックダウン不死化マウス足細胞では、有毒なグルコース代謝産物、ミトコンドリア機能不全およびアポトーシスのレベルが上昇していた。足細胞特異的にPkm2をノックアウト(KO)した糖尿病マウスでは、アルブミン尿症や糸球体病変が悪化した。逆に、培養足細胞で小分子のPKM2活性化物質であるTEPP-46によってPKM2を薬理学的に活性化すると、高血糖が誘導する毒性グルコース代謝産物量の増加やミトコンドリア機能異常が回復したが、これは解糖経路のフラックスおよびPGC-1α mRNAの増加が一因である。DBA2/JとNos3(eNos)KOという糖尿病モデルマウスを用いた介入研究では、TEPP-46の投与によって代謝異常、ミトコンドリア機能不全、腎の病変が回復した。従ってPKM2活性化は、グルコース代謝フラックスの増加、有毒なグルコース代謝産物産生阻害とミトコンドリア生合成の誘導によるミトコンドリア機能回復によってDN発症を防ぐ可能性がある。