「医学」の定義を見直す
Nature Medicine 24, 5 doi: 10.1038/s41591-018-0037-3
Nature Medicineは、生物科学の広い研究範囲を視野に入れて基礎医学研究者と臨床家との間のギャップを橋渡しし、また分子医学という新興分野の必要性を明確に示すことを目的に、1995年に創刊された。それから20年以上にわたって、本誌はヒトの健康や病気の生物学的機構を解明する画期的な研究論文を発表する場となり、成人の海馬での神経細胞の生成や、レプチン産生と肥満の関係、がん細胞でのPD-L1発現による免疫回避促進などの創意に富んだ研究を掲載してきた。それに加えて、前臨床研究の規範設定にも重要な役割を担い、公正で再現性があり、臨床試験が成功する公算の高い研究を推奨する立場をとってきたNature Medicineは、「ベンチとベッドサイド」の間の距離を埋めるという当初の目的を果たしたと言える。
今日、基礎研究と臨床研究の間の隔たりはずっと狭まり、科学と医学は互いに協力し合いながら進展しつつある。科学技術の驚異的な発達に助けられ、健康や疾病の基盤となる生物学的過程の解明が進むにつれて、生物学の理論が臨床での治療法の合理的設計に直ちに取り込まれるようになった。そして我々は、こうした状況をさらに後押しするには、医学分野で起こりつつある変化を迅速に反映するように本誌を改革し、進化させて行くべきだと考えるようになった。
本誌は今後、従来と同じく広い視野を維持して新規な優れた基礎生物学的研究を掲載することに加えて、新しい方針に沿って、革新的な医療技術や、臨床で必要とされている新規な治療方法についての前臨床的研究にも誌面を提供していくことを決断した。この新しい編集方針を示す例は、今月号でもすでに見ることができる(p. 551、p. 628、p. 679)。このような臨床分野の論文の掲載にあたっては、編集過程で新たにデータの統計学的処理、臨床試験の透明性、データ共有の倫理などが厳密に検証されることになる。
我々はまた、現代医学は疾病の治療法の探索にとどまらず、健康であることの意味、健康や病気への年齢や環境の影響についても解明を進めるべきだと考えており、ヒトの健康に大きな影響を与える科学技術、例えば身に着けられるスマートデバイス、ヘルスケアの利用や早期診断に有用となりそうな人工知能の応用例などについての研究にも注目していきたいと考えている。
進化の新しい局面に入っていくNature Medicineの誌面に読者各位が刺激を受け、また科学を基盤とする医学の進展についての活発な議論に参加し、新たな研究テーマや大規模な共同研究の機会に巡り会うことを、我々は切望するものである。