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神経変性疾患:運動と関連するFNDC5/イリシンはアルツハイマー病モデルでシナプス可塑性と記憶障害を救済する
Nature Medicine 25, 1 doi: 10.1038/s41591-018-0275-4
脳でのホルモンシグナル伝達の異常は、シナプスと記憶の障害を特徴とする疾患であるアルツハイマー病(AD)と関連付けられてきた。イリシンは運動により誘導されるミオカインの1つで、膜結合型の前駆体タンパク質FNDC5(fibronectin type III domain-containing protein 5)の切断により放出され、海馬でも発現している。本研究では、FNDC5/イリシンレベルが、AD患者の海馬や脳脊髄液中、またADの実験モデルで低下していることを示す。脳のFNDC5/イリシンをノックダウンすると、マウスでは長期増強や新規物体認識記憶が障害される。逆に、FNDC5/イリシンの脳内レベルを上昇させると、ADマウスモデルでシナプス可塑性や記憶が救済された。また、FNDC5/イリシンを末梢で過剰発現させると記憶障害が救済されるが、FNDC5/イリシンを末梢や脳で阻害すると、ADマウスでのシナプス可塑性や記憶に対する身体運動の神経保護作用が低下した。今回の知見は、ADモデルではFNDC5/イリシンが運動の有益な影響の重要なメディエーターであることを示しており、これによってFNDC5/イリシンがADで見られるシナプス機能不全や記憶障害に対抗し得る新規な作用物質であることが確認された。