神経病理学:治療目的でのmTORC2阻害はPten欠損に関連した行動異常と神経生理学的異常を救済する
Nature Medicine 25, 11 doi: 10.1038/s41591-019-0608-y
mTOR(mammalian target of rapamycin)シグナル伝達は、構造的、機能的に異なる2つの複合体mTORC1とmTORC2により仲介されていて、このシグナル伝達の調節異常は複数の神経疾患に関与することが示されている。mTORシグナル伝達の負の調節因子であるPTEN(phosphatase and tensin homolog)遺伝子に機能喪失変異を持つヒトは、巨頭症や自閉症スペクトラム障害(ASD)、てんかん、知的障害を発症する傾向がある。PTEN喪失に関連した神経学的症状や他のmTOR関連疾患(mTORopathy;例えば結節性硬化症遺伝子のTSC1やTSC2の変異)は、mTORC1を介したタンパク質合成の過剰活性化によって引き起こされる。我々は分子遺伝学的手法を用い、Ptenを持たないマウスでmTORC2の活性を遺伝学的に欠失させると、寿命の延長、てんかんの抑制、ASD様行動と長期記憶の救済、脳内の代謝変化の正常化が引き起こされるが、mTORC1の欠失ではこれらは引き起こされないという予想外の結果を得た。治療での使用に向けた研究では、mTORC2の特性を決定付ける構成要素であるRictorを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の投与が、mTORC2の活性を特異的に阻害し、Ptenを欠損した若齢マウスでの行動異常や神経生理学的異常を回復させることが分かった。まとめると、我々の知見は、mTORC2がPten欠損と関連した神経病態生理学的性質に内在する重要な推進因子であり、治療目的でのmTORC2の活性低減は、mTORシグナル伝達が調節異常となっている神経疾患に対する有望で広い効果が見込めるトランスレーショナルな治療法となる可能性があることを示している。