遺伝子編集:ヒト造血幹細胞に対する治療目的での高効率の遺伝子編集
Nature Medicine 25, 5 doi: 10.1038/s41591-019-0401-y
パラログであるγグロビン遺伝子(HBG1/2)の再発現は、胎児ヘモグロビン(HbF、α2γ2)を誘導するため、重症のβグロビン異常症である鎌状赤血球症(SCD)やβサラセミアを軽減するための広く使える治療戦略となる可能性がある。これまでに、我々および他の研究グループによって、成人期の赤血球系細胞でのHbFの抑制にはBCL11A赤血球系エンハンサーのコア配列が必要だが、非赤血球系細胞では必要でないことが示されている。また、造血幹細胞(HSC)でのCRISPR–Cas9による遺伝子修飾では、効率、特異性、および持続性にばらつきがあることが実証されている。本論文では、BCL11A赤血球系エンハンサーの+58のGATA1結合部位内を、Cas9:sgRNAリボ核タンパク質(RNP)により切断すると、このモチーフの破壊が高い浸透度で引き起こされ、BCL11A発現の低下と胎児γグロビンの誘導が起こることを示す。我々は、患者由来HSCで選択を行わずにオンターゲット編集を行うための条件を最適化し、幹細胞機能に対して検出可能な遺伝毒性や有害な影響のないほぼ完全な反応を達成できるようにした。HSCでは、非相同末端結合が、マイクロホモロジー媒介末端結合修復よりも優先的に起こった。編集されて生着したSCD HSCの赤血球前駆細胞は、治療レベルに達するHbFを発現しており、鎌状化に抵抗性を示した。一方、βサラセミア患者由来の同様の編集細胞では、グロビン鎖のバランスの回復が見られた。HSCでの完全な対立遺伝子破壊に向けた非相同末端結合修復によるBCL11Aエンハンサーの編集は、HbFの持続的誘導をもたらす実行可能な治療戦略である。